生物学を切開する
43067 「原がん細胞」の進化的な意味
 
吉国幹雄 ( 50 講師 ) 02/10/29 PM02 【印刷用へ
がん細胞の特徴は以下のような点です。

1.がん細胞は死なずに、無限に細部分裂を繰り返す。最大の増殖度を持つ。正常な細胞は50〜60回で細胞分裂が止まります。この分裂回数を決めるのが「テロメア」ですが、がん細胞はテロメラーゼ酵素によってテロメアを合成するのです。また、がん細胞では増殖レセプターを異常に多く持ち、何らかのきっかけ(刺激)によって増殖が進む。

2.生命体は「がん抑制遺伝子」(代表はp53遺伝子)を持っているが、染色体に2セットあるこの二つの抑制遺伝子ともが変異すると、抑制が効かなくなる。遺伝病の場合は初めから一つが変異しているらしい。

3.何よりも、「原がん遺伝子」はだれでも備わっており、これがスイッチが入るとがん化が進もうとする。が、普通は抑制遺伝子によって制御されている。

4.がん細胞は、自らの血管新生を作り出す。腫瘍が大きくなるためには、分裂するにしても活動するための養分や酸素を取り入れる必要がある。がん細胞はその血管を自ら作り出して栄養補給をします。

5.がん細胞は転移する。がん細胞は分化した組織から飛び出して新たなる組織に転移します。普通の細胞は「基底膜」という膜で組織につなぎとめられている。ところが、がん細胞はこの基底膜を特殊な酵素によって溶かし、他の組織へと向かう。もちろん、他の組織(集団)へ向かってもほとんどは生存できず、その確率は1万分の一だが、これが1〜4の特長によって増殖し、がん化が進んでいくのです。

以上の5点を眺めてみると、既存のシステム(例えば分裂や分化)を破壊する「がん細胞」の姿が浮かんできます。恐怖の「がん細胞」。一つ狂えば生体破壊されるわけです。しかし、見方を変えると、なんと生存能力の高い可塑性に富んだ細胞なのでしょう。また、なぜ生命体はこの「恐怖の遺伝子」を抱えたままにしているのでしょうか。

私は、「原がん細胞」は生命体がどうしようもない状況下で適応進化した際に使われた遺物なのではないかと思います。遺伝子及び細胞質基質の「変異」や「性分化」に見られる遺伝子「組み合わせ」は、生殖細胞が受精し発生する過程で可能性を開きます(ある意味では生前の小さなシステムや機能の変更や修正)。ところが、「がん細胞群」は、生後の体細胞が一気に既存システムを変えて生き残ろうとする細胞群です。…そんなことをしたら、ほとんどの生命体は死滅したでしょう。が、その中でその暴走を制御した生命体が、全く新たなる機能や組織を手にいれ、新しい可能性を開いた(おそらく違う種となった)のではないかと思います。つまり、「原がん細胞」とは、生体(種)の持つ「爆弾のような変異加速装置」なのではないでしょうか。

その名残が、現在でも遺伝子レベルにおいて蓄積しているのではないかと思います。もちろん、がん化が進む現在において、新しい可能性を開いているかといわれると、(それは生命破壊の爆弾ですし)、とてもそうとは思えません。が、コントロールしていたこれらの「がん化遺伝子(活性と抑制と両方を含みます」が、現代において外部要因あるいは内部要因によって統合できずに発現してきたということだと思います。

 
 
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