9月30日読売新聞夕刊に次のような記事がありました。一部引用します。
>がん細胞は、外界からの侵入者でないことを示す「身分証明書」にあたる物質を表面に持つため免疫システムの攻撃をくぐり抜けており、この物質を壊すと、がんがかなりの割合で破壊されることを、京都大学医学研究科の湊長博教授、本庶佑教授らのグループがマウスの実験で確かめ、米国科学アカデミー紀要に報告した。免疫力を強めて抑え込む従来のがん免疫療法と異なり、証明書を無効にして明確な「異物」にする手法で、ほとんどのがんに対処できる新しい治療法につながると期待される。<
>この物質は「PD−L1」というたんぱく質で、動物の種によって構造に差がある。正常細胞のほか、肺がんや乳がんなど、がん細胞の表面にも存在することが今年、確認された。一方、免疫をつかさどるリンパ球の表面には、本庶教授らが1998年に見つけた「PD1」という読み取り機があり、ここに自分の体で作られたPD−L1がくっつくと、リンパ球は「仲間の細胞だ」と認識して攻撃を抑える。<
>がん細胞は、正常細胞からかなり変化し、通常でない細胞が表面に出ているが、免疫による強い攻撃は受けないのが特徴。グループは、リンパ球が一応、がん細胞を不審者として怪しむものの、PD−L1という証明書を持ち、他の生物や他人の細胞ほど著しい違いがないので、攻撃に踏み切れない、と考えた。<
>マウス10匹の皮下にPD−L1を持つがん細胞を移植したところ、そのままだと30日以内にすべて死亡したが、PD−L1にふたをする抗体を腹腔内に注射した場合は、10匹とも40日以上生き延びた。うち6匹はその後死亡したが、4匹は完全に治った。また、読み取り装置のPD1を生まれつきリンパ球に持たないマウスではがん細胞を移植しても100%治った<
生物学者の多くは、免疫の仕組みについて自己と非自己の概念を使っています。免疫細胞が自己と認識したものは攻撃せず、非自己と認識したものを攻撃するというわけです。ところが、上記の記事によると、ある部分に共通因子があれば仲間と認識して攻撃せず、共通因子がなければ攻撃するということです。つまり、免疫細胞は自己か非自己かを認識しているのではなく、仲間か仲間でないかを認識しているというのが事実なのです。
「可能な限り多様な変異体=同類他者が存在していること自体が淘汰や進化の源泉であり、従って、可能な限り多様な同類他者を作り出すことこそが淘汰や進化を生み出すのである。(61)」ということが、免疫機能についても言えるのではないでしょうか。 |
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