生物学を切開する
297700 微生物の共生の研究(田んぼが発電所になる?)
 
野田雄二 ( 53 営業 ) 14/11/10 AM01 【印刷用へ
これまでの微生物の研究は、パスツール以来、一つの微生物を単離して研究するのが常識でした。寒天培地の上でコロニーを作らせる実験がこれに当たります。

しかし、自然界では微生物が単独で生息していることは殆ど無く、自然界における有用微生物の研究はなかなか進みませんでした。それが、複数の生物のゲノムをまとめて抽出・解析するメタゲノム解析と呼ばれる方法が可能になり、腸内細菌群などの生態系の解明において威力を発揮するようになっています。

この方法で、有用微生物の研究を進めている、東京薬科大学生命エネルギー工学研究室の研究成果が面白かったので紹介します。

1.鞭毛はパートナーを探し出すための道具だった。

自然環境中で微生物は、栄養物質をお互いにやり取りし、効率よくエネルギーを獲得しています。このような共生関係が形成される際には、多種の微生物の中から好みのパートナーを探し出し、接近することが必要です。我々は、メタン発酵生態系に生息する発酵菌(Pelotomaculum, PT)とメタン菌(Methanothermobacter, MT)が共生する際に、それまで運動の道具と考えられていた鞭毛が、パートナーを探し出し、その代謝を活性化するための道具として使われていることを発見しました(左の図)。この成果は、Science誌に掲載されました(Shimoyama et al. 2009. Science 323:1574)。

2.田んぼが発電所に、数uの田んぼで携帯音楽プレーヤーが動く

田んぼ発電とは、稲の根圏土壌にアノード(負の電極)を、すぐ上の水中にカソード(正の電極)を設置し、それらを電線で繋ぐことにより発電する方法です。現在は、1 m2の広さで数十mW程度の電力が得られます。つまり、数平方メートルの田んぼで発電すれば、携帯音楽プレーヤーを動かすことができます。この発電においては、稲が光合成により作り出した有機物が根から放出され、根圏の電流生成菌のエネルギー源となることにより電気が発生します。そこで、稲と微生物の共同作用(共生系)による太陽電池とも考えられています(Kaku et al. 2008. Appl. Microbiol. Biotechnol. 79:43)。

3.微生物が互いに電子をやり取りする未知の「電気共生」を発見
微生物燃料電池はバイオマスから電気エネルギーを生産するプロセスとして、また省エネ型廃水処理プロセスとして有望であり、世界中で活発に研究開発が進められています。しかし、微生物がなぜ人工的な電極に電子を流す能力を持っているかについては不明でした。

本研究では、環境中にも電極や電線が存在し、微生物が電子のやり取りをしているのではないかと考え、2種の土壌微生物(ゲオバクターとチオバチルス)が共生しているところに、環境中に普遍的に存在する導電性酸化鉄注2)(マグネタイト)粒子を添加したところ、従来の共生的代謝に比べて代謝速度が10倍以上に上昇することを発見しました。このことは、導電性酸化鉄中を電子が流れ、2種の微生物の代謝が促進されたことを意味しています。

今回の発見から、これら環境中でも微生物が導電性ミネラルを電線として使って電子をやり取りし、お互い助け合って生きているとしてもなんの不思議ではありません。

4.電流生成菌が発電する分子メカニズムの解明

電流生成メカニズムを解明することを目的に、電極に付着した微生物の単離を行い、左の写真に示す細菌Mfc52株を単離しました。 この株は、純粋培養の微生物燃料電池において、酢酸などを燃料に電流を生成する電流生成菌でした。しっぽを使って、電極に付着します。分類学的解析により新種と認定されたので、我々はRhizomicrobium electricumと命名しました("electricum"は、電気という意味のラテン語; Kodama and Watanabe. 2011. Int. J. Syst. Evol. Microbiol. 61:1781)。

流生成菌は、エネルギー獲得を目的に電流を生成します。高等生物が行う酸素呼吸では、有機物を酸化分解して発生する電子を酸素に渡すことによりエネルギーを獲得します。一方、電流生成菌は、電極に電子を渡すことによりエネルギーを得ます(電極呼吸)。このようなエネルギー代謝は最近発見されたもので、科学的に大変興味深いものです。

5.微生物燃料電池の開発・実用化研究

微生物の多様な代謝能力を利用すれば、多様な有機物を燃料にできる燃料電池を作ることができます。純粋培養した単一の電流生成菌を植えて微生物燃料電池を作ることもできますが、土や汚泥などの自然微生物群集を用いることも可能です。左の写真は、バイオマス廃棄物発電や廃水処理用に開発中のカセット電極微生物燃料電池です(Shimoyama et al. 2008. Appl. Microbiol. Biotechnol.)。廃水処理への利用については実用化が大きく期待されており(Miyahara et al. 2013. J. Biosci. Bioeng.)、国家プロジェクトにおいて企業との共同研究を行っています。


研究室Top リンク
Research リンク
微生物が互いに電子をやり取りする未知の「電気共生」を発見
リンク
 
 
  この記事は 291126 に対する返信です。
 この記事に対するトラックバックURL  http://www.rui.jp/tb/tb.php/msg_297700

 この記事に対する返信とトラックバック
309495 発電する微生物で燃料電池をつくる 佐藤賢志 15/11/18 PM05
298908 微生物燃料電池による発電+廃水浄化+リン回収 〜実験用の人工廃水ではなく実際の養豚廃水を用いたことで成功〜 稲依小石丸 14/12/07 AM01

  [戻る]  


◆実現論本文を公開しています。
 実現論 : 序  文
 第一部 : 前  史
 第二部 : 私権時代
 第三部 : 市場時代
 第四部 : 場の転換
 参考文献

 必読記事一覧
01 02 03 04 05 06 07 08 09 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 26 27 28
大転換期の予感と事実の追求
実現論の形成過程
自考のススメ1.未知なる世界への収束と自考(1)
自考のススメ1.未知なる世界への収束と自考(2)
自考のススメ1.未知なる世界への収束と自考(3)
自考のススメ1.未知なる世界への収束と自考(4)
自考のススメ2.現代の不整合な世界(問題事象)(1)
自考のススメ2.現代の不整合な世界(問題事象)(2)
自考のススメ2.現代の不整合な世界(問題事象)(3)
自考のススメ3.自考力の時代⇒「少年よ、大志を抱け」(1)
自考のススメ3.自考力の時代⇒「少年よ、大志を抱け」(2)
1.これから生き残る企業に求められる能力は?
2.私権圧力と過剰刺激が物欲を肥大させた
3.市場の縮小と根源回帰の大潮流
4.共認回帰による活力の再生→共認収束の大潮流
5.自我と遊びを終息させた’02年の収束不全
6.同類探索の引力が、期応収束を課題収束に上昇させた
7.情報中毒による追求力の異常な低下とその突破口
8.大衆支配のための観念と、観念支配による滅亡の危機
9.新理論が登場してこない理由1 近代観念は共認収束に蓋をする閉塞の元凶となった
10.新理論が登場してこない理由2 専門家は根本追求に向かえない
11.学校教育とマスコミによる徹底した観念支配と、その突破口(否定の論理から実現の論理への転換)
12.理論収束の実現基盤と突破口(必要なのは、実現構造を読み解く史的実現論)
近代思想が招いた市場社会の崩壊の危機
新理論を生み出すのは、専門家ではない普通の生産者
現実に社会を動かしてきた中核勢力
私権時代から共認時代への大転換
市民運動という騙し(社会運動が社会を変えられなかった理由)
民主主義という騙し:民主主義は自我の暴走装置である
統合階級の暴走で失われた40年
大衆に逆行して、偽ニッチの罠に嵌った試験エリートたち
新理論の構築をどう進めてゆくか

『るいネット』は、49年の実績を持つ起業家集団・類グループが管理・運営しています。るいネットワーク事務局(Tel:0120-408-333, E-mail:member@rui.ne.jp