日本を守るのに、右も左もない
255129 寺田寅彦「日本人の自然観」に学ぶ 2
 
田野健 HP ( 50 設計業 ) 11/08/04 PM09 【印刷用へ
先の投稿「日本人の自然観」の続きです。

>動かぬものの例えに引かれる我々の足下で大地が時として大いに震え、動く。そういう体験を持ち伝えてきた国民と、そうでない国民とが自然というものに対する概念においてかなり大きな懸隔を示しても、不思議ではないだろう。このように恐ろしい地殻変動の現象はしかし過去において日本の複雑な景観を作りあげる原動力となった大規模の地変のかすかな余韻であることを考えると我々は現在の大地の折々の動揺を特別な眼で見直すことも出来はしないかと思われる。

同じ事は火山においても云われるであろう。そうして火山の存在が国民の精神生活に及ぼした影響も単に威圧的なものばかりではない。日本の山水美が火山に負うところが多いということは周知のことである。火山はそれが作り出す自然美だけでなく、火山の噴出は植物界を脅かす土壌の老朽に対して回春の効果をもらたすものとも考えられる。

このように我らの郷土日本においては脚下の大地は一方においては深き慈愛をもって我々を保育する「母なる大地」であると同時に、またしばしば刑罰の鞭を振るって我々をとかく遊情に流れやすい心を引き締める「厳父」としての役割も勤めるのである。

人間の力で自然を克服せんとする努力が西洋における科学の発達を促した。何故に東洋の文化国日本にどうしてそれと同じような科学が同じ歩調で進歩しなかったかという問題はなかなか複雑な問題であるが、その差別の原因をなす多様な因子の中の少なくとも一つは上記のごとく日本の自然の特異性が関与しているのではないかと想像される。

すなわち日本ではまず第一に自然の慈母の慈愛が深くて、その慈愛に対する欲求が充たされやすいために住民は安じてその懐に抱かれることが出来る。一方ではまた、厳父の厳罰のきびしさが身に染みて、その禁制に背き逆らう事の不利をよく心得ている。その結果として十分な恩恵を甘受すると同時に自然に対する反逆を断念し、自然に順応するための経験的知識を集収し蓄積することをつとめてきた。

この民族的な知恵もたしかに一種のワイスハイトであり学問である。しかし分析的な科学とは類型を異にした学問である。

こうして発達した西欧科学の成果を、何の骨折りもなくそっくり継承した日本人がもしも日本の自然の特異性を深く認識し自覚した上でこの利器を適当に利用することを学び、そうしてただでさえ豊富な天恵をいっそう有利に享受すると同時にわが国に特異な天変地異の災禍を軽減し回避するように努力すれば、おそらく世界中でわが国ほど都合よく出来ている国は稀であろうと思われるのである。然るに、現代の日本ではただ天恵の享受のみ夢中になって天災の回避のほうを全然忘れているように、見えるのはまことに惜しむべきことと思われる。
(中略)
私は日本のあらゆる特異性を認識してそれを活かしつつ周囲の環境に適応させることが日本人の使命であり存在理由でありまた世界人類への健全な進歩への寄与であろうと思うのものである。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
寺田氏の指摘は100年を超えて的を得ている。
日本人が日本人として役割を果たしていくには、寺田氏が言うところの分析的科学とは類型を異にした学問を作り上げていく事に他ならない。それは今回の原発事故、地震ー津波で私達の中に沸々と湧き上がっている。
それが具体的に何かまでは気が付いていないが、日本人が最も近い位置にいる、自然の摂理を学ぶ学問である事は間違いない。

寺田寅彦
1878〜1935年
東京帝国大学物理学科卒業。理学博士。
東京帝国大学教授、帝国学士院会員を歴任。
東京帝国大学地震研究所、理化学研究所の研究員としても活躍。
物理学者、随筆家、俳人。
 
 
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