日本最古の物語とされる竹取物語。
「かぐや姫」の名前で童話としても定着していますが、この原典には貴族社会に対する批判が巧みに織り込まれています。
そしてここに当時の「宮廷サロン」と「性市場」の実体をも垣間見ることが出来ます。
竹取物語は平安時代に成立した文学です。(但しその舞台は奈良の都)
竹から生まれた女の子が美しく成長し、都中の羨望の的となるがやがて月へ帰って行く、というあまりに有名なストーリーですが、この物語の山場は、かぐや姫が求婚者である5人の貴族に難題を出し、貴族達があの手この手でこの難題に答えようとする部分です。
原典でもこのくだりに大幅なページを割いていますが、これを「宮廷サロンでの性市場」という観点で見ると、非常に興味深く、また極めて解りやすい事実が浮かび上がってきます。
求婚した5人の貴族とその課題は・・・
石作皇子(仏の御石の鉢)、車持皇子(蓬莱の玉の枝)、右大臣阿倍御主人(火鼠の皮衣)、大納言大伴御行(龍の首の珠)、中納言石上麻呂(燕の子安貝)。
肩書きを見ても解るように、原典は官位が上の人間から順に登場します。
5人それぞれに別の難題が科せられ、それぞれ様々な行動を取りますが、
共通しているのはまず、かぐや姫を獲得する為に5人の貴族達は金に糸目を付けません。
そして本業である朝廷への出仕すらせずにかぐや姫獲得に没頭します。
大納言大伴御行と中納言石上麻呂は難題を解くために自ら命がけの行動を取り、さらに燕の巣の中にあると言う「燕の子安貝」を求められた石上麻呂は、自ら屋根に登り転落して落命します。
一人の女性を獲得する為に財を傾け、挙げ句に命までかけるその姿には驚きですが、この5人の求婚合戦には、性の獲得がそのまま権力闘争に繋がっている事も暗示させます。
また、難題に対する貴族達の答えの出し方にも、「性」を媒介とした市場の姿を感じずにはいられません。
「蓬莱の玉の枝」を求められた車持皇子は職人に偽物を作らせますが、報酬支払いの不履行を職人に訴えられ偽造が露呈します。
右大臣阿倍御主人は商人に大金を渡して「火鼠の皮衣」を手にれますが、結局それは偽物でした。
(偽物を作ってでも)問題を全て金で解決しようとする姿には貴族への痛烈な批判を感じます。
また注目は右大臣阿倍御主人。女の気を惹く為に大金を払い、まんまと騙されてしまうその姿は、性市場で商人の騙しに乗っかってしまう貴族そのものです。
そもそもこの物語は、藤原氏を中心とした貴族政治の腐敗と堕落に対する批判が込められています。
作者は藤原氏によって没落した一族やその関係者ではないかと考えられています(紀貫之説が有力のようです)。
「竹取物語」には風刺文学の色合いが強く、その意味でこの作品は全くの荒唐無稽な物語ではなく、多かれ少なかれ当時の宮廷サロンの様子や意識を捉えていると考えられます。
ファンタスティックな童話の背景に、「宮廷サロン」「性市場」といった、市場の起源と普遍的な構造を見ることが出来、とても興味深いと感じました。 |
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