真猿たちが、現在見られる様な比較的安定した棲み分け分布を示す様になる前は、新たに登場した真猿他種(強種)との間で、激しい種間闘争が繰り拡げられたでしょう。チンパンジーやゴリラやハヌマンやニホンザル(その他、比較的大型化した真猿たち)は、夫々の棲息域で勝ち抜いて他種を圧倒した制覇種だと考えられます。
その様に制覇種が決まると、次は同種間の同類闘争となります。同種間の場合、体力etcが基本的には同じなので、この同類闘争は延々と続きますが、その闘争圧力は種間闘争よりは弱く、一種の安定化に向かう流れと捉えることも出来ます。その流れの中で、ある特殊条件が満たされた場合、極端に闘争圧力が衰弱し、安定化した少数の群れが出現します。
本来、これらの真猿制覇種たちは、夫々に広大な地域で森林という森林を埋め尽くして同類闘争を闘っており、群れも縄張りも絶えず入れ変わります。これは、群れの新陳代謝と云っても良いくらいに流動的です。しかし、小島や小半島あるいは人類の繁殖によって分断され閉鎖された小地域では、この群れ=縄張りの流動性が小さくなり、いつも同じ敵集団とのニラミ合いという状態が、恒常化してゆきます。
通常、戦闘行為(肉弾戦)は一日or数日で決着がつきますが、同じ相手とのニラミ合いが長期化すると兵士たちに厭戦気分が拡がって肉弾戦を回避しようとする様になり、互いに威嚇し合うだけの形式化された闘争に変わってゆきます(現在の多くのチンパンジーやニホンザルは、この状態にあります)。更に上記の如く閉鎖された小地域の様に、その様な状態が極めて長期に恒常化すると、遂にはニラミ合いさえ怪しくなり、同類闘争の圧力が極度に衰弱して、闘争を率いる首雄の存在理由も無くなって終います。
この様な特殊閉鎖地域に見られる現象が、屋久島や下北半島のニホンザルであり、あるいは大河に挟まれた小地域に生息するボノボの生態です。この様に、何を見るにしても歴史的に捉える視点が不可欠だと、思います。もし、その様な視点なしに、ある特殊地域の現状観察だけを大衆向けに発表すれば、殆どの素人は、ニホンザルやボノボは元々そうだったのだ(更には拡張して、サルにはボスは居ないのだ)と誤解して終います。(この点は、学者が大衆向けに何かを云う際に、深く留意して頂きたい点です。)
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