生命原理・自然の摂理
153584 ノックアウトマウスから見えてきたこと、遺伝子ネットワークによる代替
 
村田貞雄 ( 60 企画 ) 07/06/05 PM02 【印刷用へ
医学の研究領域で、特定の遺伝子(DNA領域)を損傷したノックアウトマウスによる実験が、広範囲に行なわれている。

ある臓器の重要な機能に関与している蛋白質を見出し、その発現を規定しているDNA領域を欠いた受精卵を作成し、この受精卵から生まれたマウス(ノックアウトマウス)を観察して、確かに、その蛋白質が、臓器の重要な機能を担っている事を検証しようというものである。

しかし、このノックアウトマウスは、研究者の予想に反して、何も欠陥がでてこない。

福岡伸一著「生命と非生命のあいだ」(講談社現代新書、2007年5月)から、紹介します。

哺乳類の膵臓は、消化酵素と血液中の糖分濃度をコントロールするインシュリンを分泌する臓器である。

この膵臓の消化酵素の分泌に重要な役割を果たしているGP2と命名された蛋白質がある。

膵臓の消化酵素分泌メカニズムを解明し、そのメカニズムの重要な役目を果たしていると推定される蛋白質(GP2)を同定した。

そこで、GP2を発現させるDNA領域を欠損させたマウスを使い、GP2の機能欠損を実証しようとした。

蛋白質GP2を欠いた、GP2ノックアウトマウスである。

しかし、GP2ノックアウトマウスは、消化機能不全を起こすことなく、順調に成長し、立派に受精し、次の世代を生み出した。

同様な例として、脳海綿症で注目されているプリオンに係わるGPIという蛋白質があるが、このGPI蛋白をノックアウトした。

プリオンはそれが変性し機能を失うと「狂牛病」を発病するので、脳・神経系では重要な機能を担っている。しかし、このプリオンを欠いたノックアウトマウスでも、何の異常も見つからない。

近代科学の要素還元(特定蛋白質→特定DNA領域)、因果関係(消化酵素の分泌メカニズムに関与するGP2蛋白質の欠損→消化機能不全)では、生命現象が説明できない。

では、何が起こっているのか。

GP2発現をノックアウトした受精卵は、発生過程において、遺伝子の相互作用により、GP2を使わない、別の消化酵素分泌メカニズムを形成したのである。

GP2蛋白質を使った消化酵素分泌メカニズムだけが唯一のメカニズムではなかったのである。

生命体は、この様に、遺伝子ネットワークによる動的な挙動によって、代替した秩序を作り上げる潜在力をもっている。

近代科学の祖であるデカルトを継承した定説、生物=超精密機械論では解き明かせない生命原理が存在する。

>生命は機械ではない
>酵素にようなピースの欠落によってある反応が進行しなければ、動的平衡は別の経路を開いて迂回反応を拡大するだろう。構造的なピースの欠損が、レンガ積みに穴を作るのであれば、似たような形状のピースを増産してその穴を埋めるようにするだろう。そのために生命現象にはあらかじめさまざまな重複と過剰が用意されている。類似の遺伝子が複数存在し、同じ生産物を得るために異なる反応系が存在する。

>私たちは遺伝子をひとつ失ったマウスに何事も起こらなかったことに落胆するのではなく、何事も起こらなかったことに驚愕すべきなのである。動的な平衡がもつ、やわらかな適応力となめらかな復元力の大きさにこそ感嘆すべきである。
>結局、私たちが明らかにできたことは、生命を機械的に、操作的に扱うことの不可能性だったのである。

*動的平衡という概念は、別の機会に紹介しましょう。
 
 
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生命とは動的平衡にある流れである〜福岡伸一著「生物と無生物のあいだ」より 「Biological Journal」 07/06/23 PM03

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