記憶は、外部情報を収集・整理したり、危険な体験をした場合、その後回避するために使われ、生物が適応するために不可欠な機能といえます。
記憶には段階があり、また、脳内の活動部位も異なるため、その特徴とメカニズムを整理しました。
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【記憶の種類】
┌─感覚記憶
| ↓選択
記憶 ┤─短期記憶(ワーキングメモリー含む)
| ↓海馬へ転送
└─長期記憶─┬─ 陳述記憶─┬─ 意味記憶
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| └─ エピソード記憶
└─ 手続記憶 ── 技能記憶
■「感覚記憶」は最大4秒程度しか保持できない。
感覚器官から受け取った情報を、とりあえず記憶するのが「感覚記憶」です。
見るもの聞くもの全てを記憶していたら、凄まじい容量になってしまうため、「特に注意を引かなかったもの」「特に重要でないと判断されたもの」の記憶は、数秒で消えてしまいます(視覚情報は1秒程度保持、聴覚情報は4秒程度保持)。
そして、膨大な量の情報が入っては消えていく感覚記憶の中で、意味がある情報だと「選択」された情報だけが短期記憶に送られます。
■「短期記憶」は、大脳前頭野で記憶される
短期記憶は、感覚記憶よりもう少し保持期間が長い記憶のことで、約20秒間保持されます。ある行動をとるために短期間蓄えられ、行動が終わると忘れてしまう記憶のことをワーキングメモリーと呼ばれます。例えば、企業の受付が電話で相手先の名前を聞き、それを社員に内線で伝え終わった後にすぐに忘れてしまうような記憶のことです。
短期記憶で保持できる量は7±2(5つから9つまで)程度と考えられており、電話番号を簡単に記憶できないのもその理由です。
サルを使った実験によると、短期記憶している際は、大脳前頭連合野が強く活動していることが報告されている。前頭連合野だけでなく、側頭連合野も反応を示すが、前頭連合野の活動の方が側頭葉よりも早くはじまり、活動のレベルも高いことがわかっている。
参考:
脳の世界
リンク
■長期間記憶するか否かを判断するのは「海馬」という審査機関
短期記憶された情報を長期間にわたり保持するかどうかを判断するのは、大脳辺縁系の「海馬」という器官です。海馬はタツノオトシゴに似ていることが名前の由来であり、脳内で唯一細胞分裂を繰り返す神経細胞が集まる器官であり、左右に一つづつ存在します。
その手順は、まず短期記憶が海馬に送られ、1ヶ月程度保持されます。その間に長期記憶するか否かを、「生きていく上で必要か否か」という視点で厳しく審査され、それを通過した情報のみ、側頭葉などの大脳皮質へ情報が送られ、長期間記憶が保存されることになります。
つまり、海馬は、危険な状態におかれ得た情報を記憶しておき、同じ目に遭わないように回避したり、環境の変化に上手く適応していくために、情報を取捨選択しているのです。
したがって、テスト勉強などの情報は、反復することで何度も海馬に情報を送り、生存上必要と思わせない限り、情報は記憶化されず、忘れ去られてしまうことになります。
なお、恐怖を伴なった記憶は通常の記憶と異なり、大脳辺縁系にある扁桃体に貯蔵されていると言われています。
参考:
池谷裕二氏著『最新脳科学が教える高校生の勉強法』
■「手続き記憶」は小脳で記憶される
長期記憶の中でも、「体で覚えている記憶」は「手続き記憶」と呼ばれています。
これは、例えば自転車の乗り方やスポーツの技能、身近な所では箸の使い方など、言葉で言い表さなくても自然と覚えている記憶のことを指します。これら手続き記憶は、海馬や側頭葉ではなく、小脳あるいは大脳基底核で記憶していると考えられています。
両者の役割として、大脳基底核は、脳が体の筋肉を動かしたり止めたりするようなおおざっぱな動きを記憶し、小脳は筋肉の動きを「細かく調整」し、スムーズに動くために情報を記憶します。
手続き記憶は、脳に何らかの障害が発生した場合でも、障害以前と同様に活用できることが多い。例えば、てんかん患者が手術で海馬を除去した後や、初期のアルツハイマー患者は、陳述記憶を保持することができなくなるが、手続き記憶は保持していることが多く、「陳述記憶」と「手続き記憶」で記憶のメカニズムが異なることを意味している。
参照:
206407 反復練習は、小脳へ記憶される
脳卒中を生きるリンク |
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