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漱石をねじ曲げる「奴隷」たちへ |
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( 27 千葉 SE ) |
01/03/06 PM10 【】 |
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「近頃自我とか自覚とか唱えていくら自分の勝手な真似をしても構わないという符徴に使うようですが、その中にははなはだ怪しいのがたくさんあります。
彼らは自分の自我をあくまで尊重するような事を云いながら、他人の自我に至っては毫も認めていないのです。」
(夏目漱石「私の自分主義」より)
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夏目漱石は、「吾輩は猫である」から一貫して、金力、権力へ抵抗し、西洋近代文明を疑い、民衆の奴隷性を批判した。
漱石は「文明の社会」は「血を見ぬ修羅場」であり、「博士・法律・金・物質的」といった近代的な権威、権力への対立が、その文学のテーマの一つであった。
■■■漱石の自己本位
漱石の「私の個人主義」を引用して、自説の補強をされる方がおられるようだが、それは牽強付会ではないだろうか?
■「たとえば西洋人がこれは立派な詩だとか、口調が大変好いとか云っても、それはその西洋人の見るところで、私の参考にならん事はないにしても、私にそう思えなければ、とうてい受売(うけうり)をすべきはずのものではないのです。」
■「私が独立した一個の日本人であって、けっして英国人の奴婢でない以上はこれくらいの見識は国民の一員として具えていなければならない上に、世界に共通な正直という徳義を重んずる点から見ても、私は私の意見を曲げてはならないのです。」
■「普通の学者は単に文学と科学とを混同して、甲の国民に気に入るものはきっと乙の国民の賞讃を得るにきまっている、そうした必然性が含(まれていると誤認してかかる。そこが間違っていると云わなければならない。」
(以上「私の個人主義」より)
漱石には、危機感があった。
それは盲目的な西洋追従への危機感である。
当時の日本社会全体が、圧倒的な優位にあった西洋文明一辺倒になっていくのを見て、そのような風潮に流されていく自分、社会を確立し、律するための対抗原理として、「西洋」という「他人」本位への対立概念として、自己本位を掲げたのである。
そこで言う自己とは、単なる個々人のことを指すのではない。
日本が文明開化の激流に耐えるために、確固として持つ続けなければならない民族としての自負である。
漱石文学に一貫して流れるのは、西洋人の「尻馬にばかり乗って空騒ぎをしている」日本人への警告なのである。
漱石は自著の中で、こう言っている。
、「西洋の理想に圧倒せられて眼がくらむ日本人はある程度に於て皆奴隷である」(「野分」)
■■■漱石の個人主義観
最後に、漱石の個人主義に対する考え方であるが、「私の個人主義」の中で繰り返して唱えられるモチーフは、個人主義をいかに律するか、自分と社会、あるいは国家との関係はどうあるべきか、というテーマである。
「もし人格のないものがむやみに個性を発展しようとすると、他を妨害する、権力を用いようとすると、濫用に流れる、金力を使おうとすれば、社会の腐敗をもたらす。ずいぶん危険な現象を呈するに至るのです。」
「各人の享有するその自由というものは国家の安危に従って、寒暖計のように上ったり下ったりするのです。
これは理論というよりもむしろ事実から出る理論と云った方が好いかも知れません、つまり自然の状態がそうなって来るのです。
国家が危くなれば個人の自由が狭められ、国家が泰平の時には個人の自由が膨脹して来る、それが当然の話です。」
つまり、理念としての個人主義を一旦認めた上で、それを律するための様々な条件、前提が必要なこと指摘したうえで、それは現実のものとなるのだという主張であって、ごく当たり前の主張であるが、これが、自分のことしか考えられない現代人の弁護に使われると知ったら、漱石は草葉の陰で涙するであろう。
漱石は登場人物の性格を用いて、「三四郎」では「万事頭の方が事実より発達して」いることの本質的な事実離脱性を、「それから」では「頭の中の世界」の理想的欺瞞を批判している。
国民的作家の権威を傘に、不完全な引用によって、「事実より発達」した「頭の中の世界」に都合のいい結論を引き出し、漱石をまだ知らない人々を惑わそうとすることこそ、最も漱石の意志を裏切る行為であろう。 |
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