環境破壊
371062 母なる「海」の救済:サンゴ礁の復活を支える人工の「木」
 
古越拓哉 ( 27 東京都 会社員 ) 21/10/03 PM10
母なる「海」の救済:サンゴ礁の復活を支える人工の「木」
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より転載。

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海底面積の0.2%未満を領するサンゴは、海洋生物全体の約25%の生存を支える縁の下の力持ちだ。そんな海の名バイプレイヤーがいま、温暖化や汚染により死の危機に瀕している。こうした状況を覆すべく、海底に人工の「木」を植えてサンゴを養殖するという、地球を地球たらしめる海の再生プロジェクトに迫った。

カリブ海南部に浮かぶボネール島。その小さな島の海底にある「サンゴの養殖場」に向かったスキューバダイヴァーたちは、グラスファイバー製の「木」にぶら下がる若いサンゴから、脅威となる藻をゆっくりむしり取っている。この島は海岸線全体が海洋保護区に指定された公園(ボネール国立海洋公園)になっていて、観光客にも人気が高い。

だがカリブ海のほかの地域と同様に、1970年代からサンゴの被度(海底面を覆っている度合い)が減少している。海水温の上昇や病気の流行、沿岸の開発、汚染がその理由だ。科学者とヴォランティアのダイヴァーからなるチームは、瀕死の状態にあるサンゴ礁の復活に根気強く取り組み、自分たちの活動がカリブ海の別の地域のモデルになることを目指している。

陸地に目を転じると、ボネール島は半砂漠のような土地だ。巨大なサボテンや低木が点在しており、それらが堆積物を閉じ込めて土壌流出を防いでいる。だが、ひとつ問題がある。かつてスペインからの入植者たちがもち込んだヤギやロバが野生化し、わずかな草木を食い荒らしているのだ。こうして植物が減ってしまい、多くの堆積物や廃棄物が海に流れ出るようになってしまっている。

7年前、RRFBは海中でサンゴの養殖を始めた。その目的は、自然および人為的な被害の最も大きい場所にサンゴを移植することだ。現在は9つの養殖場があり、120本以上のグラスファイバー製の「木」の世話をしている。「木」にはそれぞれ100〜150個のサンゴの断片を取り付けられることから、常時15,000個体ほどのサンゴを育てられるのだ。「サンゴ礁をかつての状態に戻そうとしているのです。サンゴを再生させることはもちろん、サンゴをすみかにしている魚の個体数を回復させることも欠かせません」とヴィルディスは言う。

人工の「木」はアンカーで海底に固定され、海面近くに浮かぶフロートで支えられている。そこに成熟したサンゴから採取した200個の断片を、モノフィラメント糸で吊るす。そうすることで、サンゴの柔らかい触手部分を捕食する虫や巻貝、カニ、ヒトデがたどり着けないようにしているのだ。

それから6〜8カ月で、養殖場で育てられたサンゴは再生エリアに移せる状態になる。主な養殖場は、ボネール島から船で西へ25分ほどかかるクレイン・ボネール島という無人島にある。だが再生エリアの一部はさらに沖合にあり、ロジスティクス面でかなり手間がかかっているという。ダイヴァーのチームは船に乗り、採取したサンゴの移植片を300個ずつ再生エリアへ運ぶことになるのだ。

そもそも、健康で性成熟したサンゴは産卵できる状態にあるが、産卵そのものは年に1度だけだ。それも満月から2〜3日後の夜の30分間で、サンゴのコロニー全体から卵子と精子の両方が入ったカプセルが一斉に放出される。それらが海面に上昇して、交じり合うのだ。科学者たちはこのカプセルを集めて交配させ、やがて海中に戻すことでサンゴ礁の回復を早めている。

養殖場で育てられている主なサンゴは、かつて浅瀬に広く生息していたスタッグホーンサンゴとエルクホーンサンゴだ。スタッグホーンサンゴは枝状の造礁サンゴで数百年の寿命がある。条件がよければ1年で10〜20cmは成長し、数mに及ぶ“茂み”を形成する。サンゴ礁にすむ魚たちは、こうしたありとあらゆる隙間に隠れられるのだ。エルクホーンサンゴのほうは、ヘラジカの角に似た太くてがっしりとした枝をもつ。どちらの種も分裂することで無性生殖ができる。サンゴの枝が折れても、岩に再固着して新たなコロニーを形成できるということだ。

再生エリアではスタッグホーンサンゴの各枝が正方形の竹のフレームに固定され、数週間以内に別の枝と融合する。数年後には竹のフレームがなくなり、その一画にはサンゴだけが残るという仕組みだ。RRFBは、かつて消滅してしまったエリアにサンゴが再び根付き、造礁し、やがて産卵を迎えることを目指している。現在、年に7,000個体のサンゴが移植されているが、ヴィルディスのチームは今後の5年間で10万個体を移植することを目標にしているという。

そのカギになるのは遺伝的多様性だ。RRFBでは50の遺伝的系統のスタッグホーンと、同じく50の系統のエルクホーンを扱う。系統によって強さも異なり、病気に強いものもあれば高温に耐えたり成長が速かったりするものもある。彼女のチームはさまざまな種や系統のサンゴを植えることでサンゴの回復力を高め、サンゴ礁を復活させようとしているのだ。養殖場で1本の木にはひとつの系統のサンゴだけを取り付けるのも、「多様性を把握するための手法です」とヴィルディスは説明する。

その「木」には毎日藻が生えてくる。放っておくと藻はサンゴを窒息させてしまうので、RRFBはヴォランティアのダイヴァーを訓練してクリーニングを毎週手伝ってもらっている。さらに、サンゴ礁の回復状況を把握するために3,000uにおよぶエリアを撮影し、それらをつなぎ合わせてモザイク写真を作成している。「サンゴを養殖できても、再生エリアで生き延びることができなければ成功したとは言えません」と言うヴィルディスのチームは、こうしてサンゴ礁のモニタリングを続けているのだ。

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