哺乳類のオスメスは繁殖期以外は、それぞれ別の世界で生きている。
まず、胎盤を持つ哺乳類の共通祖先である、食虫目(モグラやトガリネズミなど)は、オスメスそれぞれが単独で縄張りを持ち、繁殖期以外は接点を持たない。生まれた子供は成体になると、オスメスともに、母親のもとから出ていき、それぞれが単独生活を送る。
げっ歯類以降、娘の近くに残留させ、母と娘、子どもの母系集団を形成するものが登場するが、オスは成体になると、母集団を出ていき、単独か少数のオスの集団で生きていく。
その後、哺乳類はさまざまな種へと進化を遂げていくが、繁殖期以外はオスメスに接点がない(メス集団の中に入り込むことをメスが拒む)種が圧倒的主流である。イヌ科や後期原猿以降のサルなどオスが恒常的に、メスの近くにいる種もいるが例外的である。
哺乳類は、オスメスは別の世界で生きている。このことは何を意味するのだろうか?
生命史をさかのぼれば、まず次のことが見えてくる。
>進化の源泉はDNAの多様性にある。つまり、同一の自己を複製するのではなく、出来る限り多様な同類他者(非自己)を作り出すことこそ、全ての進化の源泉であり、それこそが適応の基幹戦略である。(実現論1_2_02)
生命を貫く大原理は、なるべく多様な同類他者を作り出すこと。そのために可能な限り拡散することである。実際、単細胞は分裂したのち、子ども(新個体)を引き留めようとすることはない。
魚類、両生類も同様で、新個体たちは新天地を求めて拡散していく。従って新個体(子ども)が母集団(親)から離れていくのは、この生命原理から見て当然である。つまり生物には「巣離れ本能」が備わっている。
従って、なぜなぜオスが離れていくのかが問題になるのではなく、なぜ残留する(この場合はメスが)のかの方が問題になる。
>しかし、同類他者=変異体を作り出すのは極めて危険な営みでもある(∵殆どの変異体は不適応態である)。従って生物は、一方では安定性を保持しつつ、他方では変異を作り出すという極めて困難な課題に直面する。(実現論1_2_02)
哺乳類以前の魚類や両生類は大量の卵を産み、そのほとんどが成体になるまでに食われることで淘汰されていく。それに対して、哺乳類は少数の子ども(新個体)を胎内保育し、さらに産後も、授乳等の子育てによって成体まで新個体を守るという手段を重ねた。そしてさらに親和機能の強化によって娘を残留させ、母系集団を形成することで、母体と新個体の安全度を高めた。
これらはすべて新個体の安全度を高めるというベクトル上にある。
しかし、この際に問題になるのは、成体になるまで新個体に対する淘汰圧力が働かなくなることである。そこで哺乳類は成体のオスを放り出し、さらにはオスに強い個体間闘争(メスを巡る性闘争)の本能を強めることで、とりわけオスに対する淘汰圧力を強めるという戦略をとったのである。
繁殖期以外はメスの集団内にオスが入れないのも、より広い世界で武者修行を積み、淘汰を潜り抜けたオスだけを受け入れ、子孫に繋げるためである。
つまり、”繁殖以外はオスメスは別世界で生きている”のは、この「安定と変異」の両立の大原則を貫くためと考えられる。 |
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