民主主義と市民運動の正体
340170 行き過ぎた政治タブー化の副作用
 
匿名希望 18/10/21 PM08 【印刷用へ
 日本政府の制度に対し思わぬ、というより危惧すべき状況になっているようです。

日本の若者は民主主義の価値を認識していない? このままでは日本の存在感は薄れていく? 東京大学大学院准教授の阿古智子氏は、最近そうしたことを痛感する出来事がいくつかあったという。日中のエリート学生の討論会と、自身の息子が通う小学校の教育から見えてきたこととは――。

日中エリート学生の討論会で筆者は普段、大学で現代中国や中国語について教えており、学生団体のアドバイザーも務めている。

先日、コメンテーターとして学生団体の討論会に招かれた。参加していたのは、日本、中国ともに国を代表するようなエリート学生ばかりで、日中学生の混合チームが、流暢に英語でプレゼンテーションした。

私がコメントを頼まれたのは、文化の多様性(cultural diversity)の分科会だった。

はじめに、「文化とは、アイデンティティの一形態であり、共有された社会実践の知でもあります。多様性とは、維持するものでもあり、促進するものでもあります。マジョリティとマイノリティの間の対立をどう解決するか、互いにどのように譲歩すべきか。グローバル化は抗えない趨勢であり、異なる価値観やアイデンティティを受け入れる戦略が必要です」と、学生たちは素晴らしい問題意識を示した。

その後、「日本では言葉遣いがおかしいなどとして、飲食店などで働く外国人を差別する人が増えており、中国のファーストフードチェーンでは、イスラム教徒のためにハラルフードを入れる容器を別に準備したが、イスラム教徒でない人にメリットのないことでコストを増やすのかと反対の声が高まりやめてしまった」と、差別やマイノリティ軽視の事例が紹介された。

そして学生たちは、「誰をも傷つけず、全体に福利厚生を行き渡らせることは難しい。各民族にとって、何が決して譲歩できない、必ず抑えるべき基本的関心事項であるのかを考え、それぞれの文化を実践する権利を保障する必要がある」と説いた。

(沖縄と中国の少数民族地区を比較)

ここまでは、筆者の頭にもスムーズに話が入ってきたのだが、この後、首をかしげる展開になった。

学生たちは、事例として沖縄と中国の少数民族を取り上げたのだが、「高い同質性を求める日本社会は、沖縄の人たちを独立した民族として認めず、彼らの独自の言葉も文化も尊重せず、日本の国民として同化する政策を行ってきた。それに対して、中国の少数民族は集団的権利を認められており、その独自の言葉、宗教、文化は尊重され、教育や福祉において優遇政策がうまくいっている」と説明したのだ。

そして最後に「日本は民族間の境界を曖昧にするが、中国ははっきりさせる。民族の分類が明確になれば、民族アイデンティティを喪失することはない」と結論付けた。

江戸時代に琉球が幕藩体制に巻き込まれていった経緯や、明治期の学校教育の普及の方法などを見れば、日本が近代国家を形成する中で沖縄を「同化」したと捉えることができるのだろう。

沖縄戦の悲劇や基地問題など、沖縄の多大な犠牲や負担の下に現在の日本が成り立っていることも事実だ。

しかし、過去と現在、未来のさまざまな文化的要素が交錯する中で、アイデンティティは複雑に形成される。そして、仮にも民主主義を採用している現在の日本において、一方的な「同化」など不可能だ。

          「政治的中立性」の問題

日本を代表するエリート学生がこんな調子では、日本は外交や国際舞台で活発に主張を展開できず、存在感が薄れていくのではないか。

討論会に参加していた学生の中には、中央省庁に進路が決まっている者もいた。正直、教員として、大学教育のあり方を問い直さなければならないと危機感を感じた。

筆者には公立小学校に通っている息子が1人いるのだが、そこでの教育のあり方にも疑問を覚えることがある。

この学校の周辺一帯は、治安維持法制定以後、多くの思想犯が収監された旧中野刑務所(豊多摩監獄、1915年開所)だった。小学校は現在の場所から歩いて数分のところに新校舎を建設する予定で、そこには、刑務所のレンガ造の正門(通称「平和の門」)が残っている。

天才建築家、後藤慶二設計による作品として現存する唯一のもので、建築家が中心の市民団体が保存・活用を訴えている。門と言っても、大きな2階建ての家ぐらいの広さがあり、耐震補強すれば、平和学習や地域活動の拠点として活用できるというのが、市民団体の考えだ。

しかし新校舎の建設予定地に門が残っており、近いうちにとり壊すか、保存・活用するかを決めなければならないにもかかわらず、小学校は何の姿勢も示してこなかった。

また、小学生には難しい内容であり、さらに学習指導要領の範囲外であるとして、刑務所に関わる地域の歴史を一切教えてこなかった。

「小学生には教えられない」という学校側の説明に対して、子どもを馬鹿にしているような気がしてならなかった。

筆者はこの夏、スウェーデンの教育現場を視察したが、スウェーデンの小学生向けのテキストは、独裁制国家では政府がメディアを規制・監視しているが、民主制国家では人々が自分の意見を自由に発信できると説明し、生徒がソーシャルメディアなどを利用して世論を形成するコツまで記している。

以前訪れたドイツでも、子どもたちが身近な問題を通して、当事者意識をもって政治を学ぶことができるよう、工夫していた。これらの国々では、子どもを「小さな大人」として、「一人の人間」として尊重している。


戦後日本が築いてきた民主主義国家の基礎を、崩すことなく、確実に次世代に伝え、国際社会において日本が民主国家としての役割を果たすためにも、教育現場における行き過ぎた政治のタブー化はやめるべきではないだろうか。
 
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