脳回路と駆動物質
336870 匂いは、潜在意識に眠っている記憶と密接にリンクしている。
 
匿名希望 ( - ) 18/07/01 AM00 【印刷用へ
リンク

通りすがりの他人の香水や、シャンプーなど、ふとかいだにおいから、昔の恋人を思い出して、ムズムズしたことはないだろうか。また、草いきれや雨の日の土のにおいから、幼少期の何げない風景を思い出したりしたことがあるだろう。

においは、潜在意識に眠っている記憶と密接にリンクしている。においを感じ取る脳の中枢である大脳辺縁系は、顕在意識ではなく、潜在意識をつかさどっているからだ。においは、潜在意識にすっと入り込み、眠っていた記憶を呼び覚ます。

においをきっかけに記憶がフラッシュバックする心理現象のことを「プルースト効果」と呼ぶ。フランスの文豪、マルセル・プルーストの名作『失われた時を求めて』にちなんで命名されたものだ。

この小説は、紅茶に浸(ひた)したマドレーヌのにおいによって蘇(よみがえ)った幼少期の記憶を入り口にした回想録だ。においと記憶にまつわるエピソードは、さまざまな情動・感情に修飾され、さまざまな文学作品のモチーフになっている。

においが、記憶と結び付きやすい理由は、嗅球からの信号が大脳辺縁系の中の海馬にも送られるからだ。海馬は短期記憶(最近の記憶)の保管庫だが、そこを通じて、脳のさまざまな場所に記憶を長期的に保管している。

におい刺激が大脳辺縁系にインプットされると、情動や体の生理的変化とともに、においにまつわるエピソードがフラッシュバックするのだ。だから、においは、ほかの感覚よりも生々しく瑞々(みずみず)しい。

大脳辺縁系で起こるこれらの一連の反応は、潜在意識下で起こるため、顕在意識である思考や理性では、止めることができない。においは、心の奥深くに入り込み、強烈に相手を印象づけることができるのだ。

これを恋愛に応用しない手はない。

アプローチの段階では、見た目以上に記憶に残るのは、においだ。第一印象で、相手に「良いにおい」と感じてもらうことができれば、快いという情動とともに相手に良い印象を刻むことができる。相手の好みの香水やアロマがわかるとより効果的だ。

そして会うごとに同じにおいをかぐことで、相手は知らぬ間に、あなたのにおいを覚えてしまう。においの印象=あなたの印象として記憶に残るのだ。ただし、体臭をしっかりケアして、悪臭を感じさせないことが大切だ。特に第一印象で、相手に「不快!」と感じさせてしまうと、その後も相手はあなたのにおいを嗅ぐたびに「不快!」がフィードバックしてしまう。

逆に、長年の付き合いの夫婦や恋人同士では、マンネリを避けるため、においを変えることが効果的だ。においが変われば、あなたの印象がフレッシュに変わる。

また、人は本能的に、自分とは違うにおいがする異性に惹(ひ)かれるもの。家族のように近しくなると、においも同じになってしまうが、あえて違うにおいをまとうことで、相手にとっては刺激になる。新しいにおいは、新しい風をもたらすことができる。

においは、パートナーを選ぶ際にかなり重要なファクターだ。「においフェチ」を自負する男女は、結構多い。好きになる異性のにおいは、たいてい好みのにおいだし、逆に、においが好きだから、その異性を好きになることもある。

また、においが嫌いだと、恋愛対象外になってしまうこともある。なぜか。

それは、においが、遺伝子レベルで、最適な子孫を繁栄させるための重要な判断材料になっているからだ。詳しく言うと、HLAタイプという、ヒト白血球型抗原の遺伝子タイプが、自分とは遠く、かけ離れているほど、かけ合わさったときに多様性が高くなり、強くたくましい子孫を残すことができる(引用文献 Body odour preferences in men and women. C Wedekind et al. Proc Biol Sci.〔1997.10.22〕)。

遺伝子タイプの違いは、体臭として反映される。自分の遺伝子タイプに合うにおいは、自分とはかけ離れたにおいになる。それを、本能的に「好みのにおい」と感じているのだ。

逆に、自分の遺伝子タイプと似通ったにおいは、「嫌なにおい」と感じてしまうようだ。遺伝子タイプが合えば、たとえ汗臭かろうが、その汗を「良いにおい」と感じて、女性はうっとりするはずだ。欲望だけでなく、安心感や安定感をもたらし、お互いのにおいに包まれたいと感じる。においをかぎ合うことが、自然なスキンシップにもなるだろう。

老化や生活習慣の悪化に伴う体臭は別として、自分本来の体臭は、自分に合う異性を惹きつける武器になる。だから、無臭を目指す必要はない。堂々と身にまといたいものだ。

恋人はその限りではないが、子孫を残すことを望む夫婦の場合には、においの相性も良いことを願う。

においの信号は、大脳辺縁系から、さらに高度で理性的で社会的な脳の領域である大脳新皮質に送られる。側頭葉に嗅覚野というにおいの中枢がある。ここに来てようやく、そのにおいが何であるか、特定されることになる。

嗅覚野にたどり着いたにおい信号は、保管されている経験・体験に基づくにおいについての学習データと照合される。生まれ育った社会や、家庭の環境、教育、その国の文化や一般常識、さらに体調の良しあしなどの、生まれてからの経験で得た学習による後天的なデータだ。

それが、大脳辺縁系の喜怒哀楽などの情動、快・不快、海馬にまつわる記憶などと合わさって、においが総合的に判断されるのだ。
 
List
  この記事は 211321 への返信です。
この記事に対するトラックバックURL  http://www.rui.jp/tb/tb.php/msg_336870
  ※トラックバックは承認制となっています。

[過去の記事へ]
[一覧へ戻る] [新しい記事へ]


◆実現論本文を公開しています。
 実現論 : 序  文
 第一部 : 前  史
 第二部 : 私権時代
 第三部 : 市場時代
 第四部 : 場の転換
 参考文献

 必読記事一覧
01 02 03 04 05 06 07 08 09 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 26 27 28
本能と観念の中間領域とは霊長類の世界では?
哺乳類の性闘争本能
ゴリラ、テナガザル、オランウータンと人類
『性闘争本能から縄張り闘争へ』
原猿における共感機能の進化の流れ
原猿のメスについて
原猿の縄張り闘争と子供の集団への残留
哺乳類のオスメスの庇護依存関係と原猿の雌雄共認との違い
原猿→真猿→人類のメスの共認回路@
原猿→真猿→人類のメスの共認回路A
真猿の同類闘争と共認機能
縄張り闘争と同類闘争
同類闘争の安定化と衰弱の一般則
農業・百姓を通して見た現代人−A
チンパンジー
種間闘争→大型化の矛盾と特殊解
サル時代の婚姻様式
特殊解としての大型化→性闘争→子殺し
チンパンジーの娘移籍に関する仮説
共認回路と自我回路
力の論理と共認機能
自我の源泉は、共認の部分否定にある
序列闘争は、共認されている
原猿類の生態(資料です)
驚くほど人間っぽい
原哺乳類と原猿の進化について@
真猿の進化史
アジアにおける原猿〜真猿への進化(3)
親和・性充足の強化による秩序維持の例
相手と自分を同一視する潜在思念

『るいネット』は、48年の実績を持つ起業家集団・類グループが管理・運営しています。るいネットワーク事務局(Tel:0120-408-333, E-mail:member@rui.ne.jp