日本を守るのに、右も左もない
334856 日本の擦り合わせ型生産技術の停滞が日本の競争力の低下の原因か
 
匿名希望 18/04/15 AM10 【印刷用へ
擦り合わせという関係的技術が日本の競争力の中核をなしてきたが,それが東アジア諸国に拡散し,日本がその競争力の維持を困難にし,日本のW落となっているという説を港徹雄氏が以下の如く説明されている。
1.日本の生産技術の多くは暗黙知の部分が多く,国際的移転が困難であったが,それらがデジタル技術の発展によって形式知化され,移転しやすくなった。
2.先端的な機器をもってしても代替されない技術は日本の熟練労働者を雇用することによって移転が進められている。定年や日本の大手電気メーカーの不振に伴うリストラによって解雇された熟練労働者が中国,台湾,韓国,更にはタイで再雇用されるようになった。
3.海外企業との合弁事業や技術提携が進み,こうした提携を通じて現地への日本企業から技術者や技能労働者が派遣され,技術移転が進んでいる。
4.日本の完成品メーカーの成長鈍化に伴い,従来の下請・系列との関係の解体の動きが強まり,それらの企業が海外への販売を拡大し始め,それに伴う技術移転が韓国,台湾企業の技術開発を進展させた。
以上が日本が急速にキャッチアップされた事情とされている。以上のことは事実であろうが,日本がその技術の粋を投入し,開発し,特許によって守られた製品が当初は 100% の世界のシェアを誇っていたにもかかわらず,国際標準化されるや否や,新興国の企業が参入し,日本が一挙にそのシェアを数% 近くまで落としていくという事例が最近の特徴である。技
術では勝利するが,事業で撤退を余儀なくされるという事情の説明には上記の理由は説得力に欠けるように思われる。
港氏はデジタル技術の発展が新興国の技術を急速に高め,日本の擦り合わせ技術を相対的に衰退化させた技術の代表例として,三次元(3D)CAD を挙げている。これは前項で述べた三次元をイメージして加工する擦り合わせ技術を不要にし,新興国も日本の擦り合わせ技術に急速に接近したとされている。3D・CAD に代表されるデジタル技術の発展によって,設計段階において,試作品がサイバー上で作られ,実際のテストもサイバー上でのシミュレーションによって不具合をなくすことが可能となり,製品開発に要する時間を大幅に短縮することを可能しただけでなく,親企業と下請企業との分業関係が不安定となり,日本の競争力基盤を弱体化させているというのが,港氏の主張である。港氏は 90 年代後半における3D・CAD に代表される技術を 3D/ICT 技術として総括し,第三の産業分水嶺の時代でもあるとしている。新しい技術体系のもとで,日本の企業間分業という競争力基盤が弱体化し,他方で,デジタル技術の発展が新興国の急速なキャッチアップを招き,日本のW落を招いたとされている。
以上の主張には多少の無理があるように思える。この見解は港氏の言う 3D/ICT という時代を画する技術の発展が新興国の企業に及び,日本の競争力が相対的に低下したことに日本のW落を求めるものである。新興国,特に台湾,韓国,中国の発展には目覚しいものがあるが,その発展が新興国の企業を技術的にキャッチアップさせ,日本を追い落としていったというよりも,「技術で勝ちながら事業では負け続ける」日本の企業の「事業」展開のあり方が問題であったことが問題なのである。世界市場で製品が大量普及し始まると,市場シェアを急速に落としていった実例として,最近,とくに指摘されているのが,液晶パネル,DVDプレーヤー,カーナビ,DRAM メモリや太陽光発電パネルで,それらは当初,圧倒的なシェ
アを誇っていた。アメリカに登録されていた液晶関連の知的財産権(2 万 5057 件,2005 年)のうち日本企業は 87.5% を占め,韓国は 11.1%,台湾は 1.4% でしかなかった。特許だけでは市場での優位性を維持できないのである。したがって特許のような知財権を超えた事業の仕方があることを以上のことは示唆している。新興国の企業の技術発展は確かに目覚しいものがあり,キャッチアップの期間が短縮していることは確かであるが,3D/ICT の技術発展の成果は新興国だけでなく,日本も享受しているはずである。3D/CAD のような技術は日本の擦り合わせ技術に不利に作用してきたのであろうか。
3D/CAD は擦り合わせ型の生産を行っているところで初めてその効力を発揮する。したがって日本の擦り合わせ技術は強化され,企業間分業を弱体化させるというよりはむしろ強化し,10 年に一人という職人の登場を待たなくても困難な作業の実現を可能にしている。欧米でも 3D/CAD は利用されているが,設計と製造との間が相互に自立した分業で行われてきたために,それが擦り合わせのために利用されない。本来,この CAD はアメリカの自動車生産におけるような相互に自立的な分業を前提に開発されたもので,日本のように協業を組み入れた分業を前提にしていない。詳細な設計図面を描くオペレーターが完璧に自己の仕事に責任を持ってこなし,他の部署の者との協力は最初から考慮されていない。それは日本のような擦り合わせで自動車を生産しているところでは,この 3D/CAD は使いにくいわけであるが,それでもそれを使って開発期間を 20ヶ月以下に短縮し,欧米企業よりも 10ヶ月短くしている。日本がこの間自虐的に問題にしてきたのは,日本製造業の「ガラパゴス化」ということであった。日本の製造業は世界標準の流れに背を向けて,世界一厳しい目をもった日本の顧客にのみ特殊に適合した製品開発を行い,特殊な進化を遂げてきたというのがそれである。確かに,当初は世界市場で 100% 近いシェアを持ちながら,それが大量普及し始めると一挙にシェアを落とし,日本市場でのみかろうじて維持するところまでにシェアが下がり,それは数%となる。
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