ロシアは、世界支配層エリートと専門家グループ内で取り交わされる議論を詳しく調べています。近年、彼らの狙いを知るには、西側メディアの新聞見出しを一目見るだけで充分です。民主化のために戦っていた人々が、後でイスラム教徒と呼ばれたり、初めは革命と報道していたものを後で、暴動や動乱と呼ぶ始末です。そうして、世界に混乱が拡大しています。
皆さん、世界の置かれた状況を見てください。今こそ、私たち全てが、問題の本質に立ち返るときです。それが非常に重要かつ必要で、過去の敵対関係に戻るよりもはるかに良いことです。皆で共通の課題を直視すればするほど、私たちは運命を共にしていることがわかります。そして、ここから脱出するために欠かせないことは、増大する課題に対して、国同士や社会が協力し、集団として共通の答を見つけることです。共同でリスクを管理するのです。もちろん、何らかの事情があって、自らの利益にかなうときしか、この考えに賛同しない国があることも知っています。
また、現実には、課題への共同の解決策を得ただけでは、全てが上手くいくわけではないことも理解しておく必要があります。さらに言えば、ほとんどの場合、そこに辿り着くこと自体、困難です。特に文化や歴史的伝統の異なる国同士が、国益の相違や課題に取り組む姿勢の違いを超えることは、容易ではありません。しかし、それでも共通の目的を持ち、同じ基準に沿った行動をとることで、協同して成功を収めた実例がいくつかあるのです。
たとえば、ロシアはシリアの化学兵器の問題を解決し、イランの核開発計画について実質的な意見交換をし、北朝鮮の件に関してもこちらからの働きかけで、良い結果を得ています。この経験を今後、地域の課題や世界全体の問題を解決することに使ってみてはどうでしょうか。
世界の発展を妨げるような新たな独占支配の体制を許すことなく、健全な競争、そして、安定や安全が保障される新しい世界体制には、どのような法的、政治的、経済的基盤が必要でしょう。それは、今すぐに誰かが、全てを網羅した完璧な解決策を与えてくれるような話ではありません。私たちは今後、各国政府や世界的企業に市民社会、そして、本会議のような専門家による討論の場に至るまで、幅広い参加を得ながら、広範囲に作業していく必要があるでしょう。
とはいえ、成功と本物の成果を得るには、世界情勢に深く関わる主要国が、それぞれ道理をわきまえた自制心を持ち、基本的利害を調和させることに合意し、積極的かつ責任ある指導的立場の模範となる必要があります。私たちは、(ある国家や勢力による)一方的な振る舞いがどこまで許されるのか明確に規定せねばならず、そのために多国間で機能する仕組みを採用していく必要があります。そこで、国際法の効力を強化させる一環として、安全と人権を保障するために国際社会がとれる行動の範囲と、全ての国に保障される国家主権や内政不干渉の原則との間で、進退きわまる二者択一の状態をまず克服しなければなりません。
この人権と国家主権の対立(の未解決状態)が、世界中の国家に対する勝手な内政干渉を急増させ、幾度となく、主要国間に危険な対立を生んでいます。いまや、世界情勢の安定と強化は、各国の主権をどう維持させるかにかかっているのです。
もちろん、外部からある国家へ強制力を執行する際の正当な基準の設定は、極めて難しい議論です。というのも、それを当事国の利益から切り離して考えるのが不可能だからです。しかし、それよりも基準や合意そのものがないことは、はるかに危険です。いまの国際社会には、明確な合意事項や合法的な内政干渉の規定がないのですから。
さらに言えば、国際関係は国際法に基づいたものでなければなりません。そして、国際法は、正義や平等、真実といった良識の元にあるべきです。おそらく、中でも最も重要にすべき点は、それがお互いの利益を尊重したものであるかどうかです。明快で簡単な答ですが、これに従うだけで世界の状況は根本的に変化し得ます。
もし私たちにその意志さえあれば、各種国際機関や国際地域の諸機関や制度を再建することは可能です。国際社会は未開の地ではないのですから、何も新しいものをゼロから作る必要などありません。特に第二次大戦後に創設された各種国際機関は、普遍的な組織形態をしていますから、それらを現代の世界情勢に対応できるように、実質的な中身を伴ったものに再編することもできるでしょう。
これは、国連の仕事を改善させることにもなります。国連はこれまで、かけがえのない役割を担ってきました。過去40年に渡り、欧州大西洋地域の安全保障と協力体制を維持してきたOSCE(欧州安全保障協力機構)も同様です。OSCEは現在でも、ウクライナ南東部の問題解決のために極めて実質的な役割を果たしています。
世界情勢が根本的に変化し、制御の効かない流れと様々な脅威が増す状況下で、主要国が新たな世界的合意を生み出す必要に迫られています。これは、古典的な外交を気どって行う地域政策や主要国の勢力分配ではなく、誰かが完全な世界支配の采配を振るうものでもありません。新しい形の相互依存が必要です。世界はそれを恐れるべきではありません。むしろ、これは各国の地位を調和させる望ましいあり方なのです。
特に世界の所々の地域が強力に成長する状況下で、これは適切なことです。このような新興国や新興地域においては、様々な制度や強力な組織作り、それに各地域間のやりとりを円滑にするための法整備が必要になります。このような新興地域間の協力は、世界の安全保障、政策、経済の安定に力強く寄与します。しかし、このような意思の疎通が確立されるためにはまず、各新興地域とそれぞれの統合プロジェクトが発展するために、平等の権利を有する前提から入ることが必要です。そうすることで、お互いが補完し合い、衝突や対立が人為的に強制されないようにできます。仮に国家が破壊的な行動をとるならば、国家間の結びつきは壊れ、当事国は極めて困難な状況に陥り、ときに崩壊に至ります。
ここで、昨年起きた出来事を話したいと思います。ロシアは欧米諸国に対し、ウクライナのEU加盟に関して、秘密裏に早まった決断を下すことは、経済へ深刻なダメージを与える危険性があると伝えました。政治面に関しては何も言及せず、ただ経済について述べたのです。事前に何の協議もなく、そのような独断で突き進めば、ウクライナの最大貿易相手国であるロシアを含む、他の数多くの国家の利害に影響を及ぼすと。そのため、この件に関しては幅広い議論が必要だと話したのです。ちなみに、ロシアは、WTO(世界貿易機関)との加入交渉に19年費やしました。これは非常に困難な作業でしたが一定の合意に至りました。 |
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