として、夏目漱石の『三四郎』の一節が紹介されている。
やや難解だが、その潜在思念と予測思考の深さには驚かされる。
日本人として、心に留めておきたい。
《以下引用》
マスコミに載らない海外記事『益々傍若無人化するウソ』リンク
(前略)
漱石本が売れているという記事を見た。
『こころ』が売れているそうだ。色々読んだ彼の作品中、素人に一番難解な小説。どこが良いか全くわからない。再読する気力もおきない。
個人的には、何度も引用している『三四郎』の一節が最高だ。明治の戦争推進時期に、よくかけたものだ。そして『坑夫』。偶然声をかけられ、足尾銅山で働いた人物の経験談。いくら読んでも、銅山事業や、鉱毒問題への批判的言辞は見当たらない。それでも、福島廃炉活動?に活躍されている皆様リクルートの原型と思ってよむと現代的。
『三四郎』の一節、あきずに引用しよう。高校時代、このくだりを読んでファンになったので。
_____________________________________________
「どうも西洋人は美しいですね」と言った。
三四郎はべつだんの答も出ないのでただはあと受けて笑っていた。
すると髭の男は、
「お互いは哀れだなあ」と言い出した。
「こんな顔をして、こんなに弱っていては、いくら日露戦争に勝って、一等国になってもだめですね。もっとも建物を見ても、庭園を見ても、いずれも顔相応のところだが、――あなたは東京がはじめてなら、まだ富士山を見たことがないでしょう。今に見えるから御覧なさい。あれが日本一 (にほんいち)の名物だ。あれよりほかに自慢するものは何もない。ところがその富士山は天然自然に昔からあったものなんだからしかたがない。我々がこしらえたものじゃない」
と言ってまたにやにや笑っている。
三四郎は日露戦争以後こんな人間に出会うとは思いもよらなかった。
どうも日本人じゃないような気がする。
「しかしこれからは日本もだんだん発展するでしょう」
と弁護した。
すると、かの男は、すましたもので、
「滅びるね」と 言った。
――熊本でこんなことを口に出せば、すぐなぐられる。悪くすると国賊取り扱いにされる。
三四郎は頭の中のどこのすみにもこういう思想を入れる余裕はないような空気のうちで生長した。
だからことによると自分の年の若いのに乗じて、ひとを愚弄(ぐろう)するのではなかろうかとも考えた。
男は例のごとく、にやにや笑っている。
そのくせ言葉(ことば)つきはどこまでもおちついている。
どうも見当がつかないから、相手になるのをやめて黙ってしまった。
すると男が、こう言った。
「熊本より東京は広い。東京より日本は広い。日本より……」
でちょっと切ったが、三四郎の顔を見ると耳を傾けている。
「日本より頭の中のほうが広いでしょう」と言った。
「とらわれちゃだめだ。いくら日本のためを思ったって贔屓(ひいき)の引き倒しになるばかりだ」
_____________________________________________
《引用以上》 |
|