抗生物質の投与による腸内細菌のバランスの乱れが、腸管以外の全身にも影響を及ぼし、肥満・糖尿病・アトピー・喘息などの疾患につながることに注目が集まっています。
これまでその発生メカニズムについては、ほとんど明らかにされていませんでしたが、最近、筑波大学と科学技術振興機構の研究でそれが明らかになりました。
以下、「腸内細菌のバランスの乱れが、喘息を悪化させるメカニズムを解明―新しい発想のアレルギー治療へ―」(平成26年1月16日)(リンク)からの引用紹介です。
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本研究では、腸内細菌のバランスの乱れが、なぜ喘息などのアレルギーを引き起こすのかという疑問を明らかにするために、まずマウスに5種類の抗生物質をそれぞれ2週間経口で投与しました。そのうえで、アレルゲンであるパパインやダニ抗原の吸入により喘息を発症させ、その病態を観察しました。その結果、ある種の抗生物質を投与したマウスでは、それ以外の抗生物質を投与したマウスや抗生物質を投与しないマウスに比べ、気道内の炎症が有意に強く、喘息症状がより重篤になることを見いだしました(図1)。
そこで、喘息症状が強く出たマウスとそれ以外のマウスで、腸内細菌の変化の違いを比較しました。その結果、喘息症状が強く出たマウスでは、腸管内で真菌(カビ)の一種であるカンジダが異常に増殖している一方、乳酸菌などの一部の細菌が減少していることを見いだしました。これらの結果より、抗生物質の投与によりいわゆる善玉菌が減少し、その結果増殖した悪玉菌であるカンジダが、喘息が重篤化する原因となっていることが推察されました(図2)。
次に、腸管内カンジダがどのようなメカニズムで喘息を重篤化させたかについて解析しました。
(中略)
結果をまとめると、以下のようになります(図5)。
1)ある種の抗生物質の服用により、腸管内でカンジダが増殖する。
2)カンジダからプロスタグランジンE2が産生され、血液を介して肺に到達する。
3)肺内でプロスタグランジンE2がM2型マクロファージを増加させる。
4)増加したM2型マクロファージが喘息などのアレルギー性炎症を悪化させる。
また、喘息の治療としてカンジダの増殖を阻止する抗真菌剤(5FC)、プロスタグランジンE2の産生阻害剤、あるいはM2型マクロファージの活性化阻害剤(SAP)などを、抗生物質を投与したマウスにそれぞれ投与したところ、いずれにおいても喘息が軽快することが示されました(図6)。
本研究は、抗生物質の投与による腸内細菌のバランスの乱れがアレルギー性疾患を悪化させたメカニズムを世界で初めて解明したものです。
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腸のバランスが崩れれば、体全体のバランスも崩れる。実際、「腸の脳」(261247)という言葉もありますが、私たちはこの重要な機能を果たす腸に対して、あまりにも無防備、無思慮に投薬を続けてきたように思います。
抗生物質と一言で言っても、天然のものから完全に人工的なものまで様々な抗菌剤が存在していますが、天然or人工を問わず、特定の細菌に作用する→腸内のバランスを崩す→体全体のバランスも崩すというメカニズムを理解した上で、投与にあたってはもっと慎重に行うべきでしょう。 |
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