新しい男女関係(→婚姻制)の模索
289366 日本の家父長制とは何かA〜家父長制に関するフェミニストの捉え方の検討
 
匿名希望 14/04/17 AM02 【印刷用へ
(前回289271からのつづき)

フェミニストたちがどの様に家父長制を捉えていたかを以下の文章(衛藤幹子 家父長制とジェンダー分業システムの期限と展開リンク)から検討します。

(以下引用)

従来、フェミニストは男性支配の構造を「家父長制」と称してきた。(略)本稿は、家父長制が狩猟採集社会から農耕社会に移行するなかで女性の生殖機能の支配を目的に登場したのに対し、ジェンダー分業は近代資本主義経済のもとで女性の労働力を管理するシステムとして形成されたと考える。(略)家父長制家族とは、父子相続(父系家族)にもとづいて家父長がその家族成員に絶大な支配権を有する形態である。(略)日本における家父長的家の成立は、古代末期院政期から鎌倉期であると言われている(鎌田、一九九二年、一七頁)。(略)明治近代国家のもとで、家父長制は教育物語と明治民法とによって全国民に浸透するところとなった(鎌田、一九九一一年、一一五’二六頁)。

女性の従属が歴史的に造りだされた者である事指摘したのは、フリードリッヒ・エンゲルスである。エンゲルスは、『家族・私有財産・国家の起源』(戸原訳、一九六五年)の中で、「女性の世界史的敗北」を論じた。私有財産が存在する以前、家族は母系の血縁関係で成り立っており、男女の間に分業はあったが、両性の関係は平等であった。しかし、私有財産制の発生によって単婚(一夫一妻制)家族が生まれ、さらに国家の成立は単婚家族を父権が支配する家父長制家族に変えた。(略)

ラーナーは、狩猟採集あるいは園圃社会から農耕社会に移る頃に親族の形態が母系制から父系制に変わり、私的所有が発展したとのではないかと推測する。そして彼女は、この変化の要因を明らかにする手がかりとしてレヴィ・ストロースの「女の交換」に注目する。レヴィ・ストロースによると、近親婚の禁忌は世界の様々な部族に共通してみられ、それは「母、姉妹あるいは娘を娶ることを禁止する規則であるよりはむしろ、母、姉妹あるいは娘を他の人に与えることを強いる規則」(馬渕・田島監訳、一九七八年、八三一一頁)なのである。「女の交換」は、花嫁略奪、処女剥奪の儀式やレイプ、取り決めによる結婚など様々な形態によって行われる。しかし、いずれの場合であっても、同族内結婚(内婚)の禁止とともに、女に対する一連の教化が先行して存在する。女は小さい子どものうちから、こうした強制的な結婚に同意することが彼女に課せられた義務だと教え込まれ、それに従うように躾られる。

(引用終わり)

「家父長制」と言う言葉は、明治時代のフェミニストたちが、彼(主には彼女)らにとっての「敵」として提起したようです。女性の権利を阻害するもの、女性を支配するものとして盛んに吹聴したのでしょう。

彼女たちは、必死で歴史を紐解き、古代の男女関係が女性優位の母系制社会であったことを調べ上げました。族内乱婚→族外婚→妻問婚などといった婚姻のありようは、彼女たちの研究の成果です。しかし、これらの「事実」は明治時代の「家父長制」を打破する為に導出されたものであり、事実を見極めようとする姿勢とは些かかけ離れていたことが伺えます。

その一例が、彼女らが主張する「院政期から鎌倉期」(又は「家父長制が狩猟採集社会から農耕社会に移行するなかで女性の生殖機能の支配を目的に登場した」)とする家父長制の発生期の問題です。

院政期とは平安時代であり、貴族階級が母系制氏族の支援を得て朝廷内の権力闘争に明け暮れた時代です。貴族からは武門と呼ばれる武士も登場し、その後の鎌倉時代には相当に隆盛しますが、この二つの時代を経てもなお、日本の婚姻は妻問婚が大半でした。フェミニストであった日本婚姻史の研究者たちは、武家社会以降に家父長制が登場し婚姻も嫁取婚であったといいます。しかし、実際は同居しているだけで夫は相変わらず妻妾の寝所へ通う妻問婚のような振る舞いを続けていました。

又、正室として嫁いだことをもって「嫁取」と称していますが、正室となった女性でも氏姓は変わることなく、元の氏姓(例えば北条政子など)を名乗って居たようです。現代の婚姻のように夫方に居住し姓も夫の姓に変え、あたかも夫の家族となって実家と区分するのとはかなり違ったもののようです。

更にフェミニストたちは嫁取への移行が、夫方の経済力によって妻の生殺が支配されていると説明します(農耕社会の生殖支配の説などの例)が、上記のように元の氏姓を捨てていない女性たちは決して元の氏族集団から追い出されたわけではなく、離婚した際にも元の氏姓に戻って生活を続けることも可能だったと思われます。それは、妻方氏族も相応の生産力を有する武家だからで、経済的に「支配」される必然性が無いからです。

婚姻も、娘の父である「家父長」が一人で決定できるものでは有りません。確かに娘を他家へ嫁がせるなどの事例がありますが、これらは領主の許しを得て、夫方に打診され、これを夫方の受け入れがあって始めて成立するものです。これらの婚姻は、武家同士の同盟を結ぶためで、武士間の同類闘争では極めて重要な「戦略」であり娘もこのことを良く理解していたと思います。

さて改めて、フェミニストの主張する「家父長」は日本の婚姻史のどこにあったのでしょうか?

古代貴族や鎌倉武士は妻問婚、戦国武将でようやく嫁取婚らしくなりますが、実際には妻問の同居形態程度に過ぎません。支配ではなく同類闘争を生きる方策、その後の江戸時代も武家では妻妾は持ったまま、そしてようやくフェミニストが直面する明治時代に至ります。

明治時代には個人婚が法制化され、人々には自由な恋愛への憧れが生まれます。娘にも性的自我が芽生え、とは言え、かつての婚姻の規範意識も残っているのでさほど自由に結婚出来ません。その抑圧の原因を、戸主として個人生産の主体となり強権的な存在となった父親による「権力」の濫用と捉えたところに「家父長制」という観念が登場したのだと考えられます。

そして、彼女たちフェミニストたちは、元来の女性の優秀さを立証しようとして古代の母系制社会にたどり着いたのでしょう。

今一度我々日本人の精神性を振り返ったとき、日本の婚姻史の底流には、古代より変わらぬ母系の思念が残り続けている様にも思えてきます。日本の女性たちは、武士の妻と言えど決して支配されからではなく進んで一族を盛り立てようとしました。明治以降の近代〜現代の家族でも横暴な父を支え子供に躾と深い母性愛を注ぎ、時には父さえも叱咤する良妻賢母であったと思います。経済的には武家社会以降男子が主役となりましたが役目は政治や闘争です。農業生産や手工業生産では変わらず女性たちが労働の主役でした。だからこそ夜這いなどの妻問の風習も法律で禁止されるまで普通に残っていたのでしょう。

婚姻史をいよいよ本格的に見直す時期に来ているように思います。
 
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