> 原猿の進化の過程を現在生存する種について見てみたいと思います。
現在、原猿は東南アジア、インド、アフリカの熱帯地域、そしてアフリカ東南部のマダガスカル島に生息しています。中でもマダガスカルには約30種類の原猿が生息し、いまだに新種が発見されているそうです。これは全霊長類約180種の2割近くに相当します(余談ですが、数百年前のマダガスカルには体重約390sという、ゴリラより大きな“原猿”が生息していたそうです)。
マダガスカルにこれだけの原猿がいる理由の一つは、この島が約6500万年前にアフリカから分かれて離島となったことのようです。大陸の霊長類はやがて真猿へと進化しましたが、マダガスカルではこれが起こらず、原始の姿を保ったまま独自の進化を遂げることができたのです。
もう一つの理由は、この島の環境の多様性です。日本の約1.6倍の面積の中には、熱帯雨林、乾燥した高地、半砂漠など日本より遥かに多様な気候が存在し、それぞれの環境に適応して進化した結果が現在の種類の多さだと考えられています。
したがって、「原猿」と一言でいっても、始祖の原型を留めているネズミキツネザル(ネズミレムール)から、ニホンザルに近い母系集団を形成するワオレムールまで、マダガスカルに生息するものだけでも、その姿形、生態は様々です。
ネズミレムール:体長約12.5cm 体重50〜90g
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ワオレムール:体長約42.5cm 体重3〜3.5s
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ワオキツネザルは昼光性ですが、目には「タペータム」と呼ばれる夜行性動物特有の反射性の膜を残しています。また、マダガスカル以外の原猿類は全て夜行性であることから、彼らが夜行性→昼光性へ進化したのは間違いなさそうです。
外敵圧力の小さい隔絶された離島だったからこそ、ワオレムールは昼の世界に進出し、写真にあるように地上にも進出できたと考えられます。メス優位という霊長類では珍しい生態(これは原猿でも一般的ではないようです)もこのためと思われます。真猿をはじめ多くの昼光性哺乳類が現れた大陸では、原猿は夜行性のニッチに身を留めるしかなかったのでしょう。
逆にいえば、かつての原猿から真猿への進化も一足飛びではないでしょうから、マダガスカルをはじめとする多様な原猿たちの生態を見ていくことで、当時の共認回路の形成過程をある程度たどることができるかも知れません。
参考:小田亮著「サルのことば」京大学術出版会、
杉山幸丸編「サルの百科」データハウス |
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