米食品医薬品局(FDA)は、20年ぶりに食品包装の栄養表示の全面的な変更を計画している。
変更が認められれば、見落とすのが難しい大きな数字で一食当たりのカロリーが表示されることとなる。カロリーを目立たせることで減量や節制に役立つと確信する栄養学者たちはこの動きを歓迎している。
しかし、カロリー表示は本当に正確なのだろうか?
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ハーバード大学で研究を行うリチャード・ランガム(Richard Wrangham)氏は、公式カロリーの多くが正確ではないと主張する。「精白パンのように加工度の高い食品であれば信頼性がある」と同氏。「しかし、加工度が低い食品の場合、吸収されるカロリーは公式な数字を下回る可能性が高い」。
原因は、ラベルに表示されるカロリーの測定法が、食品が消化されやすくなる加工や加熱の有無を考慮しない点にある。ランガム氏によれば、体が吸収するカロリーは食品の物理的構造に影響されるという。
一定量の食品に含まれるカロリーは加工の有無にかかわらず同じであるという誤解は、体重を増やさずに空腹を満たせる未加工食品ではなく、エネルギー密度の高い食品を手に取る傾向を招いているのではないかとランガム氏は指摘する。
◆火の発明
ランガム氏は栄養学者ではないこともあり、彼の主張については意見が分かれている。自然人類学の教授を務める同氏が人類進化の研究に端を発して食品ラベルを批判するようになったのは1970年代、好奇心からチンパンジーの食生活をまねたことがきっかけだった。加熱していない食品の咀嚼や消化は極めて難しく、この食生活で丸一日を過ごすのはほぼ不可能との結論に至ったという。
この経験から、食品の消化を容易にする料理が人類進化を飛躍的に進歩させたのではないかとランガム氏は考えた。同氏は2009年に出版された著書『火の賜物 ヒトは料理で進化した(Catching Fire: How Cooking Made Us Human)』の中で、栄養素を分解することで摂取や代謝を容易にする料理の発明により、古代人はますます巨大化する脳に必要なエネルギーに足るカロリーを摂取できたと主張する。
◆生々しい事実
ランガム氏の主張を裏付けているのが、加熱や加工されていない食品のみを極力摂取しようとする“ローフーディスト”を対象とした研究だ。生の食品のみを摂取する人々では、慢性的なエネルギー欠乏や体重減少の兆候がすぐに現れたという。また、加熱食品から生の食品を中心とする食事に変更した513名を対象にドイツで行われた研究によれば、女性で平均約12キロ、男性で平均約10キロの体重減少が認められた。
また、ハーバード大学の研究者レイチェル・カーモディ(Rachel Carmody)氏が2011年に行ったマウス実験では、加熱された肉から得られるカロリーが生の肉を上回ることが報告されている。
◆食品ラベルの中身
ランガム氏は、食品の消化に必要なエネルギーが公式カロリーに反映されていない点を問題視する。
数年前からナッツの研究を行っている研究者デイビッド・ベアー(David Baer)氏によれば、「新しい実験計画を用いたところ、一食当たりのピスタチオに含まれるカロリーは食品ラベルの表示よりも5%少なかった」という。「アーモンドに至っては20%も少なかった」。
ベアー氏は、ヒトの消化管が分解しづらい細胞壁の中にナッツの脂肪分が含まれていることが原因ではないかと考えている。
また、ラベルに正確なカロリーが表示されれば、栄養豊富なナッツを食べる人が増えるのではないかと同氏は期待する。
◆“それなりに”役立つカロリー表示
現時点では、食品に含まれるカロリーと体が吸収するカロリーとの差が健康的な体重維持を大きく左右すると考える栄養学者は極めて少ない。
しかし、カロリーをめぐる議論はあるものの、食事の指導という点では専門家たちの意見は一致している。人類は料理や加工によって今の姿に進化したかもしれないが、加工食品や精製された食品の普及が肥満や健康問題の原因であることに疑いの余地はない。カロリーが低ければ摂取量を増やす後押しになると考えるランガム氏は、加工されていない生の野菜や未精白の穀物、果物、ナッツといった食品の正確なカロリーの特定を求めている。
これには栄養学者たちも賛同するに違いない。
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