婚姻様式と風土との関係について、富田さんが返信されていますが、私も林さんの風土類型に沿って考えたいと思います。風土と文化・思想との関係は、和辻哲郎氏や梅原猛氏などの優れた考察がありますが、実現論は婚姻様式まで踏み込んでいて大変興味深いと思います。
まずモンゴロイドが住むモンスーン型ですが、確かに「季節風」によって湿気や暑さ、暴風雨、洪水、大雪、台風、乾季雨季などさまざまな外圧を受け、和辻哲郎氏曰く「人間をして自然への対抗を断念させるほどに巨大な力であり、人間を忍従的たらしめる」となりますが、山野や海辺には豊かな食料資源があり、しかも簡単に採取できます。人間を忍従的たらしめると同時に、豊穣な恵みをもたらす自然に囲まれて、「人間や動植物ばかりか、山や川にすら生きた生命が宿り、世界はすべてこうした生きた生命から成り立っているという世界観(梅原猛氏)」が育まれたのでしょう。
闘争圧力がそれほど高くなく、したがって能力ヒエラルキー格差が付きにくい平準な集団を統合するには、総偶婚が適していたと考えられます。勿論、性闘争や自我が発現する余地はありません。
牧場型は、地中海沿岸をルーツとする北西ヨーロッパの風土とされ、コーカソイドがいます。地中海沿岸はモンスーンの夏の湿潤に対し、夏の乾燥を特徴とし、大雨、洪水、暴風は少なく、人間に対して従順とされます。モンスーンアジアの人々が自然に対して受容的、忍従的であるのに対し、牧場型の人々は自然との戦いから開放されていると言えます。この自然の「従順さ」は人々を自然の中に法則を探求させることに向かわせたり、征服する発想につながりました。
北西ヨーロッパは夏雨地帯ですが、降水量はモンスーンアジアに比して少なく温順で、暑熱の代わりに激しい寒さをもちます(ただ暑熱より寒さは容易に征服されやすい)。温順な自然は半面土地が痩せていることを意味し、地中海も死の海といってよいほどに生物の少ない痩せ海でした。
森林で獲物を追う狩猟部族は、まだまだ強い闘争圧力を受けて強い集団統合力を維持し続けているため、婚姻制は首勇集中婚の規範を残しつつ、一段下に拡張した勇士集中婚(勇士婿取り婚)を形成していったと考えられます。牧畜生産に移行すると一気に闘争圧力は低下しますが、母系氏族集団を破壊するような性闘争はほぼ封鎖されていたと思われます。
砂漠型(ツンドラ、ステップ、砂漠+オアシス、サバンナの4類型がある)と称される風土に進出した遊牧部族は、西アジアにコーカソイド、中央〜東アジアにモンゴロイドがいます(林さんの挙げられていたアフリカは一旦おきユーラシア大陸を想定します)。遊牧は、遊牧している野生の有蹄類の群れにくっついて移動する生産様式ですが、梅棹忠夫氏によると、家畜の子どもを人質に取ることによって母親を逃げられないようにして、子どもに乳を飲ませる際に人間が搾りとるという技術と、大多数のオスを去勢することによって群れの中にとどめたまま、群れの統制を保つ技術の、二つの技術を前提として完成したとされています。農耕に匹敵する人工的な加工が施された家畜は、蓄財意識を芽生えさすに十分だったと思われます。
まして小集団(小氏族)で移動するという闘争集団ゆえに、男原理の父系集団に移行すると、嫁取りのための婚資(=相当数の家畜)を蓄財することを第一義とする私益集団と化していきます。私益集団から掠奪集団が生まれるのは時間の問題と考えられます。
(実現論 イ人類の同類闘争=性闘争から掠奪闘争へ実現論2_1_00参照)
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