最近話題のiPS細胞。
ほとんどの人が耳にしたことがあるかもしれませんが、「iPS細胞って何?」と疑問を抱いている人が多いのではないでしょうか。
ここでは単にiPS細胞の原理を説明するのではなく、iPS細胞の研究が生まれた動機、どのようにしてiPS細胞が発見されたのか、などの歴史的背景を踏まえながら解説していきます。
*ES細胞→ドリーの誕生→クローンES細胞→iPS細胞、という歴史の
流れがあるので、順番に説明します。
参考資料:Newton「iPS細胞」
・失われた機能を再生したい
人体の組織が欠損した場合にその機能を回復させることは、傷害を受けたヒトは誰もが願うこと。もしも、再生が実現できれば、網膜の取り換え、神経細胞の再生、もしかすると腕や足も再生できるかもしれない。
このように、失われた機能を再生させるために生まれたのが再生医療であり、これから出てくる研究の根底にある考え方です。
〜ES細胞の起源〜
・なぜ、ヒトの再生能力は限定的?
生物によって、再生能力は大きく異なる。例えば、イモリは脚を失っても自然に再生される。プラナリアに関しては全身を3等分しても、それぞれが再生して1匹になって、合計3匹になってしまう!
そこで、研究者たちは「再生能力の高い生物と、ヒトとの違いとは何?」と疑問を抱くようになる。
・カギを握るのは「幹細胞」
幹細胞とは簡単に言えば「様々な細胞に変化できる細胞」のこと。例えば、プラナリアの体には幹細胞が存在していて、それが腸、神経、筋肉など様々な細胞に変化することが出来る。だからこそ、体を切断されても再生することが出来るのだ。
しかし、ヒトにも幹細胞は存在する。造血幹細胞は赤血球、白血球、リンパ球などに変化しているし、他に神経や皮膚に関する幹細胞などたくさん存在している。
ただ、プラナリアの幹細胞は「何にでも変化できる」のに対して、ヒトでは「限定的」だから再生能力が低い。(皮膚が剥がれたり、血液を失っても再生できるが、腕はもちろん指すらも再生できない)
・「受精卵」は全ての細胞に変化できる
そこで目を付けたのが受精卵。事実として、ヒトはたった1個の細胞から発生している。つまり、受精卵は皮膚、神経、血管、目、を含め全ての細胞に変化できる能力を持っていることになる。言い換えると、受精卵の細胞をコントロールできれば、自由に細胞を作ることが可能となる。
*受精卵の細胞とは、厳密に言うと「胚(胎児になる前の細胞)の塊」
を指している。そして、胚(embryo)から取り出す幹細胞(stem
cell)ということで、頭文字を取って「ES細胞」と命名された。
・1998年、「ヒトES細胞」の作製に成功
ES細胞を作製するに当たっての「培養するための条件」が研究された。
1981年にマウス、1995年にサル、そして1998年にヒトのES細胞が作製された。
・大きな問題点@:倫理問題
ES細胞における一番の問題点は倫理問題である。使用される受精卵は不妊治療で余ったもの(不妊治療では10個程度の受精卵を体外受精させ無事に子供ができれば、余った受精卵は廃棄される)を使用しているのだが、子宮に戻せばヒトが発生するであろう受精卵を研究に使うことに、批判の声が多い。
・大きな問題点A:拒絶反応
ヒトの免疫システムでは、自己と非自己を認識するための仕組みが存在しており、仮にES細胞で臓器などを作ったとしても拒絶されてしまう。
〜ES細胞の起源、終わり〜
次は、生物学の常識を覆した大事件「ドリーの誕生」です。 |
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