国家の支配構造と私権原理
228974 古代日本に、中央集権国家は実現したといえるのか?
 
阿部佳容子 ( 47 大阪 営業 ) 10/03/27 AM00 【印刷用へ
人頭課税から土地課税への移行は、徴税システムの大きな転換点であり、その契機となったのは「荘園制度」である、そこから日本における律令制=中央集権は崩れ始める―。

この通説は、事実なのか?

荘園制は、八世紀半ばに成立したしくみだ、とよく言われる。公地公民制度の建前の下、口分田の不足を補うために、三世一身法(723年)、墾田永年私財法(743年)を発布し、土地の開墾を促した。しかし、実際には、あらたな開墾は水路工事等を伴うため農民レベルでは成し得ず、力のある貴族や寺社が行なうことになる。結果、旨味は、貴族や寺社だけに集中する。

遡って律令制以前の寺領。たとえば、7世紀初頭にできた法隆寺は、播磨の揖保郡に「水田」を持っていた。6世紀末の四天王寺も、四天王寺自身の「所領田園」を維持している。寺は独自の財源、農地を与えられ、私領をもっていたのである。

つまり、荘園制は8世紀の墾田永年私財法からはじまったのではない。6世紀には、すでに荘園制らしい制度ができていた。

大和の政権も、結局は、蘇我や物部といった有力豪族の合議で運営されていた。そしてのちには藤原がのさばる体制へ、あるいは、平氏や源氏、北条がいばりちらす体制へかわっていっただけのことである。

国土を多くのなわばりに分割し、勝手に私する。そんな組織が集まって国政を左右する。このありかたは、飛鳥時代から室町時代までさほどかわっていない。権門の押さえる荘園と、政府の直轄地である国衙領(こくがりょう)がモザイク状にいりくんで、地域をかたちづくっている。それが、応仁の乱へいたるまでの日本社会だったのである。ただ、8世紀初頭(701年大宝律令〜743年墾田永年私財法)に、中央政府の国家管理がいくらかは強まったというだけのことなのだろう。

それにしても、10世紀後半に、後期荘園制度として登場したという「寄進地系の荘園」とはおもしろい現象だと思う。土地の所有権を放棄して貴族に差し出し、自らは荘官としてその土地を支配管理する。租税免税の特権を得るためだ。当時、それだけ重税だったともとれるが、もっと踏み込んで考えると、日本人には納税によって国家を支える、という観念がそもそも薄い(ピンとこない)ともいえるし、よく言われる「土地神話」に代表される所有欲よりも、実は実質価値を重視する民族である、ともいえる。制度は、それを被る人々の意識構造に合致して、はじめて定着する、ということだろう。

史上、制度としての律令制は存在した。しかし、古代日本において統一国家をつくりあげていたのか?と問われると相当怪しい。中央豪族=ミニ国家の集まりだったと見たほうが実体に即している。

日本における本格的な中央集権国家の実現は、明治維新をもってはじめて行われた、ということなのではないだろうか。


参考図書:井上章一「日本に古代はあったのか」
 
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中央集権から封建制へ(農民の武装化と地方市場の拡大) 「縄文と古代文明を探求しよう!」 10/03/31 AM01

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