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被害者なき詐欺事件〜刑事司法の実態
より引用〜
さる7月16日、公安調査庁長官や高等検察庁検事長などを歴任した「大物検察OB」に対する一審判決が東京地裁で言い渡された。在日本朝鮮人総聯合会(朝鮮総聯)本部の売買取り引きをめぐり、東京地検特捜部に「詐欺」容疑で逮捕・起訴された緒方重威氏である。
緒方氏が逮捕されたのは2007年6月のことだった。公安調査庁の元トップが総聯本部の売買に関わるという驚愕の事実に、当時の新聞やテレビには関連報道が溢れ返ったが、あれから早くも2年以上の時が過ぎた。公判で緒方氏側は一貫して無実を訴え続けたものの、東京地裁が言い渡したのは懲役2年10月・執行猶予5年の有罪判決。緒方氏側の主張はまったく受け入れられず、法廷の場で一蹴された形となった。
しかし、この事件は今なお謎に満ちている。
そもそも、公安調査庁のトップや検事長まで務めた超大物の検察OB――いわゆる“大物ヤメ検”の緒方氏がいったいなぜ、朝鮮総聯本部の売買取り引きなどに関わることとなったのか、いまひとつ動機等が明確に伝えられていない。また、緒方氏らに襲いかかった東京地検特捜部の捜査は、誰がどう考えても矛盾ばかりが目立つ代物だった。
事件当時、朝鮮総聯はRCC(整理回収機構)から債務返還訴訟を起こされ、本部ビルが差し押さえに遭いかねない窮状に陥っていた。そうした時期に実行された総聯本部の売買取り引きについて、特捜部は当初、朝鮮総聯と緒方氏側が共謀して「差し押さえ逃れを図ろうとした」とする構図――即ち、「強制執行妨害罪」を視野に入れて捜査に着手した。
ところが、いつの間にやら朝鮮総聯側を「被害者」とする「詐欺」事件に切り替わり、わずか半月に満たない超スピード捜査で緒方氏らが逮捕されたのである。言うまでもなく検察にとって緒方氏は“身内”である上、「天皇の認証官」である検事長経験者が検挙されるというのは前代未聞の事態だ。特捜部の捜査は何もかもが異例尽くめだったといってもよいだろう。
この事件で特捜部は最終的に、緒方氏らが朝鮮総聯側を騙し、総聯本部の土地・建物に加えて4億円以上の現金を総聯側から詐取した――との絵図を描き出し、緒方氏らを起訴した。
しかし、現に朝鮮総聯が入居しているビルなどを騙し取ったとしても、恐らくは転売すらできず、利益などまったく見込めない。また、資金調達が不調に終わったことが明確になると緒方氏らは総聯側と相談の上、ただちに本部の所有権登記を総聯側に戻している。騙し取るつもりならば、登記を戻すのに最後まで抵抗するはずだ。そして何よりも、「被害者」であるはずの朝鮮総聯側は、現金詐取も含めていまも「私たちは騙されたと認識していない」と主張している。つまり、緒方氏らが逮捕されたのは、「被害者なき詐欺事件」という奇怪な代物だったのである。
では、これほど矛盾に満ちた事件捜査の真相はどこにあったのか……。
その答えの深淵を伺い知ることのできる興味深い書籍がこのほど出版された。事件の“当事者”である緒方氏自身が、すべてを赤裸々に曝け出す手記を出版したのである。題して『公安検察〜私はなぜ、朝鮮総連ビル詐欺事件に関与したのか』(講談社)。
総聯本部の取り引きに関与した動機。特捜部による捜査の背後に横たわっていた事情。さらには“古巣”である検察の内実まで……。“ネタバレ”になるので、ここで手記の詳細には踏み込まない。ただ、手記の中で明かされている法務・検察の実相は、「被疑者」とされた緒方氏側の訴えであることを差し引いたとしても、ひどくグロテスクだ。つまり総聯本部をめぐる事件で当時の法務・検察上層部は、時の政治情勢と北朝鮮バッシングのムード漂う世論動向を睨みながら必死で“自己保身”に走り、歪んだ捜査権を平然と振りかざして恥じなかった、というのである。
にもかかわらず、一審・東京地裁は捜査の矛盾点に踏み込むことすらなく、検察の主張通りに有罪判決を言い渡すだけだった。これが日本の刑事司法の実態なのだと知れば薄ら寒い気分にもなってくるが、刑事司法や公安組織の内情に興味のある方には必読の一冊だと思う。
〜引用終り〜
上記のように、現在の権力の暴走は、身内にまで矛先が向けられ、誰が見ても不可解な事件が強引に裁判によって裁かれる、という実態がある。
一方で、このような暴走劇に対する暴露も同時進行しており、権力の暴走と同時に権力者の無能化も徐々に暴かれつつあると見る事も出来る。
事実に基く真っ当な判断軸を、我々庶民こそが身に付け、不当な権力の横暴を暴いて行く必要がありそうだ。 |
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