8/13付け日経新聞が、「人類の戦争の起源〜山極寿一さんに聞く」という記事で、京大の霊長類学者(国際霊長類学会会長)山極寿一の見方を紹介している。現在のサル・人類学における戦争起源論である。以下引用。
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チンパンジーの群れの衝突と人類の戦争は、根本的に違う
今年も2日後に太平洋戦争の終戦記念日を迎える。わが国は64年間、平和の道を歩んできた。地球上では、民族や宗教の対立に起因した紛争が絶えない。長年、ゴリラなど大型類人猿の研究を重ねてきた京都大学教授の山極寿一さん(57)は京都市北白川追分町の人類進化論研究室で、チンパンジーの群れの戦いと、人類の戦争の違いについて、まず話し始めた。
「チンパンジーの群れと群れとの衝突が、これまでに目撃されている。この衝突が、人類の戦争と根本的に異なるのは、個々のチンパンジーは自己の利益のために戦っていること。これに対し人類の場合は、自分たちで作り出したユニークな社会性を背景にして、共同体の利益のために戦争をするのです」
動機はあくまで共同体の内部にあり、人間の社会性を為政者がうまく操り、国家や民族集団のために奉仕するよう仕向けるから、戦争が誕生する、というのだ。
では、人類の社会性とは何なのか。
「我々の祖先が進化の系統樹で、チンパンジーから枝分かれして草原で暮らすようになる。食料を確保するために、小集団で狩猟採集をする。その一方で、夜間、寝ているときに襲ってくる捕食者から身を守ったり、共同で育児をしたりするために、大きな集団を作る」
「そうなると個々のメンバーは分担して集団に奉仕する必要が出てきます。様々な集団への帰属意識、それに集団への奉仕や共感といったものが社会性を作り出すのです」
大量殺戮(さつりく)の原因は「言語の出現」「土地の所有」「死者の利用」の三つ
「戦争が大量の人間の命を奪うようになった原因の第一は言語だと思います。音楽には、その場で体験を共有して一体感を作り出す機能があります。それが言語になると、そこには実在しない出来事や空想上の話も伝えることができる。だから言葉の出現によってバーチャルな共同体、つまり国家や民族といった目には見えにくいものをも人々の心に植え付けられるようになります」
第二が土地所有。
「人類の歴史の99%は狩猟採集の時代。その時代には、広い地域を複数の集団が共有して、狩りをしたり、木の実の採集をしたりしていたので、土地の境界はさほど重要ではなかった。1万年ほど前、農耕の時代が始まると、土地の利用法が劇的に変わる。定住し、土地を耕し、種をまき、肥料をやり、作物を実らせる。土地の所有権が発生し、境界が出現します」
個人や集団は土地に帰属するようになる。
「土地を管理する者が大きな権限を持ち、さらにそれを統括する者が支配者になる。それにより、土地や境界をめぐる争いが引き起こされ、集団間の戦争に発展する素地が作られたのです」
死者の利用が第三の原因だ。
「人類は、すでにこの世から去った死者の利用も考えつく。人の一生は短い。生涯にわたって権利を主張できる土地の広さは知れたもの。先祖代々の土地であることを宣言することによって、広い土地の所有権を子孫に継承していく。その象徴として墓を建て、先祖を崇拝するのです」
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(引用以上、つづく) |
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