さて、単雄複雌型の種にとって、次の首雄は必ず負けザル(多くは若オス)たちの中から登場する訳ですから、負けザルたちの棲息域が不可欠に成ります。それが、ハヌマンラングールやゴリラに見られるオスたちの集団です。
ここで、よく子殺しの典型として引き合いに出されるハヌマンラングールについて、考えてみましょう。性闘争=縄張り闘争に勝った新首雄が、もしメスたちの赤ん坊を殺さなかったとすれば、種としての個体数が増え、縄張りを拡大すると共に縄張り闘争を激化させる事になります。それは、首雄にとって、大変な負担増になります。もっと問題なのは、個体数の増大と縄張り闘争の激化により、負けザルたちの生存域が無くなって終う(or極めて小さくなって終う)点です。
つまり、ハヌマンラングールやゴリラは、一定の赤ん坊殺しによって縄張り闘争の激化を防ぐと共に、敗けザルたちの生存域を確保しているのです。もちろん、首雄自身は、そんな事を考えている訳ではなく、生来の性闘争本能の強さと凶暴さから赤ん坊殺しを始めたのでしょうが、結果的にはそれが彼らの最良の適応方式であったと云うことでしょう。
それに対して、チンパンジーの子殺しは、一般に良く見られる現象ではなく、稀に見られる現象で、それも、他の群れに行って浮気してきたメスの子殺しが多い様です(時に、オスたちが浮気メスに集団リンチを加え、そのメスを殺して終う場合もあります)。ここでは、父系集団たるチンパンジーのオスたちが、外からやってきたメスたちをどういう目で見ていたかを、推察する必要があります。
これは全くの私見ですが、乱婚化したオスたちにとって外からやってきたメスは、自分たちの大事な獲物(宝物)だったのではないでしょうか?しかし、メスは(乱婚化しているぐらいですから)浮気者です。そこで、メスを敵(他の群れ)に取られないことが、縄張りを取られない事と同程度にorそれ以上に重要な課題となったのではないでしょうか?
だとすれば、メスの防衛(囲い込み)という最重要課題を破って敵と交わった不倫メスは、オスたちにとって絶対に許せないことになり、制裁の対象となるのも肯けます。そして、この様なオスたちの課題(闘争)共認に基く制裁の方法が、敵の子供かも知れない不倫メスに対する子殺しではないでしょうか(おそらく、そこには、「見せしめ」の意味も込められているでしょう)。 |
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