中米のニカラグアでは、月の動きにあわせて農作業を進める習慣が残っているらしい。理由は知らなくても、古くからの言い伝えをしっかり守っているのです。以下、「現代農業」より転載します。リンク
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「ニカラグアの月と農業」福岡正行
〜略〜
●ピタヤは満月と新月の夜に花開く
ピタヤ(ドラゴンフルーツ)は月下美人のように夜に花が咲くのですが、約14日の周期で開花する性質をもっています。ニカラグアの栽培現場は数ヘクタールの山が見渡す限りのピタヤ畑。そのうえ露地栽培ですから、開花したときは壮観です。土壌の水分や肥料成分の状態が似かよったところがまとまっていっせいに開花するのです。ピタヤ農家のあいだでは、5月に雨季に入って最初に降った雨の14日後に花芽が確認できると昔から言われています(これもなぜか14日です)。
6月末のこと。私はタイへ、ピタヤ栽培農家の視察に出かけました。大農園の畑では栽培技術によって開花をコントロールしていました。しかし田舎の小さな畑を調査したときは、自然のままに開花させていました。私が行ったときは、ちょうど数日前の開花ピークを過ぎたところで、その畑ではほんの少ししか花を確認できませんでした。
そしてその夜、ホテルに帰ってメールチェックをしていると、ニカラグアからピタヤの開花の写真が送られていました。その日付は数日前で、タイで自然のまま開花した時期と一致しているのです。もしやと思い、すぐに日本の栽培農家にも開花の日付を問い合わせてみると、これもまた同じ日。そうです。それは満月の日でした。
ニカラグアとタイと日本、地球上の遠く離れた3カ所で、異なる栽培条件にもかかわらず同じ時期に開花しているのはどうしてでしょうか。タイの栽培農家に聞いても、開花のサイクルはやはり14日とのこと。月の満ち欠けは地球のどこでも同じです。つまりピタヤの花には、満月と新月の日に約14日周期で咲く性質があるのです。
ニカラグアに戻ると、開花の続く7月は事務所でピタヤの販路拡大の相談をして過ごしました。組合長は、電話で大手スーパーマーケットのバイヤーと納品の時期を決めます。内容を聞いていると、組合長は「開花は何日ごろだから収穫はその××日後」と、集荷に来てもらう日程を決めていました。驚いたのは、その交渉がなんと半年後の最後の収穫にまで及んでいたことです。正確ではないかもしれないが、だいたいの開花日を彼らは予測することができるのです。その方法をきく前に、月齢カレンダーを見て確認してみると、それは満月・新月の日とズバリ一致していました。
●竹を切るなら新月に限る
ピタヤ以外にも、収穫や栽培について昔から決まった日に行なっていることがたくさんあります。ある日、私は、竹がほしくて20本ほど切らせてほしいと農家に頼みに行きました。すると彼は「今日はだめだ。再来週にもう一度来い」というのです。人手がないからなのか、その農家にも何か都合があるのだろうと思い、指定された日まで待つことにしました。
2週間後、ふたたび訪ねると、その日は民芸品を作る材料を探している業者も竹を買いに来ていました。二人で数10本もの竹を切り出しながら、業者に「農家はなぜ今日来るように指定したのだろうか」ときくと、「今日は新月で、竹を切る絶好の日だ」と教えてくれました。だから業者も、新月のこの日をねらって買い付けに来たというのです。それに対して、満月に切った竹はすぐに虫が発生して、まったく使いものにならないそうです。
ここにも月にまつわる話があると感心しながら、竹の枝打ち作業をしていました。私に同行した青年は、落とした枝の節を持って「これを植えると竹が生えるか」と農家に聞いています。農家は「ふつうなら芽が出るが、今日の枝は新月の枝だから芽が出ない」と言っていました。同じ日のうちに、なんとも不思議な話を二つも聞いてしまいました。
●接ぎ木職人は新月には接ぎ木しない
農業試験場にも月に合わせて作業している人がいました。ピタヤに関してニカラグアでもっとも見識がある研究者がいる地方農業試験場(農牧林業省の研究機関)では、いろいろな果樹の苗がいつも数百本単位で準備されています。この国でも、果樹を栽培する農家は接ぎ木苗を使うので、栽培地に適した苗を毎日のように作っています。担当の職員は、接ぎ木を15年以上専門に行なっているまさに職人。
その職人が、新月の日は接ぎ木をしないというのです。理由をきくと、成功率が非常に低く、台木や穂木を無駄にしないためとのこと。そして、この職人にとっても接ぎ木するのが難しい植物を扱うときは満月の日を選ぶのだそうです。その理由は、彼自身の体験と、古くからの言い伝えによるようです。接ぎ木の成功率がなぜ月の満ち欠けに左右されるのか理由は知らなくても、それを守り続けているそうです。
●新月のときは地下部に水分が集中、満月のときは地上部に集中
『月と農業――中南米農民の有機農法と暮らしの技術』(ハイロ・レストレポ・リベラ著、農文協)によると、新月の時期は地下部に水分が集中し、「すべてが浄化されるとき」と考えられているという。したがって果樹のせん定は、樹の腐敗を防ぎ、傷の修復を早めるように、二十六夜から新月のあいだにすることが多いとのこと。
反対に、三日月から満月にかけてのあいだは、水分が地上部に集中していく時期。上弦の月の3日後から満月の3日後までに接ぎ木すると、活着がもっともよいともいわれている。またこの時期は、果実が水分を多く含むので収穫時期としても適している。
ただ、せん定については、樹齢がまだ若く、これから生長を望むときは、新月の真っ最中から三日月までの3日間に、一方、樹勢を抑えて結実を進めたいときは、水分が上部に集中する満月のときにせん定したほうがいいとも書かれている。何をねらうかによっても作業時期は変わるのだ。
(転載終了) |
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