アドレナリンと言えば、神経伝達物質としてではなく、高峰譲吉が初めて副腎から分泌される血圧上昇物質として、世界で最初に結晶化したことで有名な「ホルモン」ですが、もちろん神経伝達物質として脳内でも広く分泌されているようです。まずは、アドレナリンの概略。
「アドレナリン:A系神経の下部にあるC系神経の神経伝達物質として脳全体に分泌されている。驚いたときや恐いときに、多く分泌される。副腎の内部(髄質)から分泌されるホルモン。副腎髄質は全身を目覚めさせ、活動させ、戦闘させる交感神経の神経節である。神経節は腹の中の小さな脳ともいうべき存在であり、その命令を伝達するのがアドレナリン(20%ほどはノルアドレナリン)。正確にいえば、副腎髄質はその無髄神経部分が神経線維を失っている。つまり、先祖がえりして、元のホルモン分泌細胞に戻っているわけだ。従って副腎髄質から分泌されるアドレナリンは、一般のホルモンであり、神経と神経をつなぐシナプスではなく、血液中に分泌されている。血液中に分泌されたアドレナリンは、人間活動のエネルギー源であるブドウ糖の量を急増させ、全身を活動させる準備をする。」(『脳がここまでわかってきた』大木幸介:光文社より抜粋)
先祖がえりというのは微妙ですが、アドレナリンがアミン系では一番古い神経伝達物質であることは間違いありません。アドレナリンが多い人は、こわがりで、卑屈になる傾向があると言われたりて、「恐怖のホルモン」。これも単純にそうとも言えないと思うのですが、危機状況での人間の感情で言えば「恐れ」を感じる時に多く分泌される情動ホルモンのようです。ただ、ホヤなどでは変態に関わる重要なホルモンらしいという報告が最近なされています。変態とは体の基本システムを変えるわけですから、極めて覚醒力が強く「状況(おそらく劇的な)変化」に対応するためのホルモンということでしょう。ノルアドレナリンと同様に、闘争系に関わるホルモンであると思われます。
ただ、カテコールアミンは別々に分泌されることはなく、実際にはA系神経でも、副腎臓質でも交じり合って分泌されますので、アドレナリン(A)とノルアドレナリン(NA)との区別は、それほど鮮明ではないようにも思いますが、アドレナリンはノルアドレナリンから作られますので、(ホルモン進化上は反対)、闘争系の回路でも、より基底的(始原的な)位置にあると思われます。より危機適応力を高めるためにAからNAへと進化させていったのでしょう。
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