実現論で解脱物質(快感物質)として考えられるホルモン(あるいは神経伝達物質)として、オキシトシン・エンドルフィン・ドーパミンがあげられています。前回、親和物質として考えれているオキシトシンのもともとは集団物質と呼ぶべき根源的なホルモンではないかと述べましたが、そうすると他の二つのホルモンは進化論的にあるいは機能的にそれぞれどのような違いと意味を持っているのでしょうか。
まずは、エンドルフィンについて、ドーパミンとの差異も含めて検討します。(ドーパミンについては後日改めて扱う予定です)
エンドルフィンといえば、人間だけでなくラットの精液にも含まれていて「うれしい」時に、分泌されるホルモン。快感作用を持っている。
エンドルフィンといえば、親しい人と別れるときに「さびしい」思いをするときに、分泌されるホルモン。鎮痛作用を持っている。
快感作用と鎮痛作用、繋がらないことはないが、頭が痛いからといって「鎮痛剤」を飲んでも、快感があるわけではないが…、さて?
エンドルフィンは機能的には体内麻薬物質であるといわれています。実際に、モルヒネと構造的にも似ており(脳内の阿片薬や阿片様物質をオピエート・オピオイドと呼んでいます。他にエンケファリンなど3系20種類ほど見つかっています)、実際にβエンドルフィンはモルヒネの10倍の鎮痛作用があるようです。ちなみにドーパミンはどちらかといえば、体内の覚醒剤です。
「麻薬」「覚醒剤」いずれも快感作用と依存症を引き出します。麻薬は精神的な依存だけでなく、身体的な依存を引き起こすものを医学的には指しているようですが、これは麻薬物質の働く場所が、たとえばエンドルフィンの場合は脳内だけでなく全身の神経系特に消化系でも多く分泌されるからだと考えられます。それに対して、覚醒剤は脳内にとどまっているわけです。
このようにまず、エンドルフィンの特徴としてドーパミンと異なり、脳内はもちろん、全身の重要な部位で分泌されています。このことからも、ドーパミンよりもかなり古い(根源に位置する)ホルモン(神経伝達物質)であると予想されます。実際に、エンドルフィンやACTH(村田さんも紹介されている副腎皮質刺激ホルモン)は単細胞生物にも見出されているようです。細胞間のやり取りであるホルモンとして使われる以前から存在しているところを見ると、オキシトシンなどよりもかなり古い根源物質のようです。
また、エンドルフィンは脳内での作用の仕方として、他のドーパミンのような快感物質とは違う作用をします。ドーパミンは快感物質として、その物質そのものに快感という色をもった神経伝達物質です。ドーパミン作動性の最大の神経(束)はA10神経です。これを制御抑制する神経がギャパ作動性神経です。ギャバ作動性神経によって、負のフィードバックを受けているわけです。(ずっと、ドーパミンが出っ放しだと頭の中が快感に酔いしれて狂ってしまいますから、他の神経で制御抑制しているわけです)。
ところが、このギャバ作動性神経の末端に多くのエンドルフィンのレセプター(麻薬レセプター)がついているのです。エンドルフィンが制御抑制回路を抑制することで、結果としてA10神経に対して正のフィードバックをしていることになります。また、フィードバックといえば多くの神経はオートレセプターを持ちます。快感回路も同様です。出しすぎたあるいはシナプスに滞留する神経伝達物質を自らが回収する負のフィードバック機能です。ところが、多くの麻薬物質はこのオートレセプターにくっつくわけです。そうすると、回収されずに快感物質が長く脳内に滞留したり、多く伝達されることになります。
つまり、もともとはエンドルフィンそのものは「快感」という色を持っているのではないということでしょう。快感を感じさせるのが、二次的(間接的)な働きということになれば、その本質的な意味はどこにあるのか、あったのか。
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