飛び入り失礼いたします。
最近、ミトコンドリアDNAの解析結果による分化年代特定や系統分類についての研究が盛んになり、どうもその結果がいわゆる“科学的”と無批判に一般の人に捉えられている傾向を感じるので、ちょっと気になる点を指摘したいと思います。
まず、mt-DNA解析の基礎的な原理については、図解入りでこちらに載っています。
リンク
このページの7/150〜32/150をご覧頂きますと、解析の根拠やだいたいの原理は分かると思います。
ミトコンドリアは、核DNAと比べて中立的(※1)な点突然変異(1塩基が入れ替わる)がはやく蓄積される(※2)といわれています。
※1:中立的変異→生命の維持に有利・不利の影響を与えない変異のこと。
ミトコンドリアは酸素呼吸に関わる重要な細胞小器官。
ちょっとした変異でも、多くは致命的になり、淘汰される。
そのため、中立的変異のみが次世代に受け渡されていく。
※2:呼吸の際に出る活性酸素の影響が強く、DNAが傷つきやすい。
→修復の際、ミスが起こりやすい→点突然変異がはやく蓄積する。
ミトコンドリアDNAは約16500の塩基配列から成るのですが、もちろん人類のミトコンドリアならほとんどがまったく同じ塩基配列を持ちます(“塩基”などの用語については、同ホームページの用語集をご参照下さい)。
で、上のページについては、アイスマンに特徴的なCCCCという配列と、TAGC(普通の人はTAGT)という配列が共通している人が見つかり、この二つが偶然に変異を起こしてそのようになる確率が極めて(天文学的に)低いことから、ある女性をアイスマンの子孫と推論したわけです。
mt-DNA解析による進化系統樹の作成は、塩基配列のホモロジー(共通性)を指標になされています。
概ねこういうことです。
1) ATTATAC 〜 GGAGTACC 〜 TTATCGG
2) ATTATAT 〜 GGAGTACC 〜 TTATCGG
3) ATTATAT 〜 GGAGTACA 〜 TTATCGG
4) ATTATAT 〜 GGAGTACC 〜 TTATCGA
5) ATTATAT 〜 GGAGTACA 〜 ATATCGG
〜は共通配列を指していると思ってください。
この場合、2)は1群の最後がC→Tへ、3)は2)がもとでさらに2群の最後がC→Aへ、4)は2)がもとでさらに3群の最後がG→Aへ、5)は3)がもとでさらに3群の最初がT→Aへ変異したと類推されるので、系統樹は下のように書かれるわけです(時系列に並んでいるというルールを前提にパズルを解いていくような感じですね。すごく単純化して説明しているので注)。
1)
↓
2)
↓ ↓
3) 4)
↓
5)
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