日本人と縄文体質
336894 大衆需要によって拡大した江戸時代の市場
 
北村浩司 ( 壮年 広報 ) 18/07/02 AM00 【印刷用へ
江戸時代は急速に生産力が拡大し、それに応じて市場も拡大した。しかし、その市場拡大の様相はヨーロッパ諸国と異なるものであった。

○大衆需要を基盤にした大商人の登場
江戸時代には呉服店に代表される、大商人が登場する。三井呉服店・大丸呉服店・白木屋呉服店・松坂屋呉服店など現代の巨大百貨店に連なる商人たちや酒造業から出発した鴻池屋等の商人である。
それらを代表させて三井呉服店(越後屋)を見ていく。三井は元々近江(滋賀県)六角氏の城持ちの家臣で、越後守を名乗る武士であった。
主家が滅亡し、商売に転身するが、彼等が急速に台頭したのは、当時急速に都市規模を拡大し30万の人口を数え、多くの庶民の住む江戸という大都市の特性に着目し、1683年に「現銀安売無掛値(かけねなし)」の革新商法を掲げたことによる。従来の呉服屋は大名や大商人など富裕層を顧客とし、丁稚・手代が顧客の家を巡って反物の販売と呉服の仕立てを請負い、代金は盆暮れでの付け払いで行った掛売り商法であった。それに対して「現銀安売無掛値」は店先で反物の販売と仕立てを請負い、代金は現金払い、そして店内に仕立て職人を多数雇い入れて顧客の注文にすぐさま応じて呉服を仕上げるという商法である。従って現金売りであるため付け払いと違って代金の受け取りが確実であるため、通常より安価に呉服を提供できる。そして庶民でも呉服を利用できるように、既に仕立てた呉服を店に掛けておいて販売したり、反物の端布に至るまで現金売りで販売するという方法で、膨れ始めた庶民層の懐をあてにした商売であった。 また、三井呉服店は呉服を扱うと同時に、庶民向けの綿織物・麻織物の卸・小売も行い、江戸の庶民だけではなく、周辺の村の百姓を顧客とする行商人をも束ねていた。
 この三井呉服店の新商法は大当たりをし、18世紀後半ともなると三井の営業店舗は全国に15店舗を数えるに至る。そして、江戸本店が最高の売上を記録したのが1785(延享2)年、一日平均600両余り。現在価格に換算すれば、日に7200万円、年間で江戸本店だけで200億の売上である。三井の経営する全店舗で働く従業員は総計1000人を数えた。まさに三井の拡大は、豊かになりつつある江戸や周辺の村の庶民を主な顧客とした商売にあったのだ。システムは若干異なるが大丸・白木屋・松坂屋等の大商店も基盤は同様である。

○大衆市場の拡大はヨーロッパに対して1世紀先駆けていた
この大衆相手の巨大商店の登場は、ヨーロッパに対して100年以上先駆けるものである。イギリスの初期の大規模小売商として良く知られているのは、ロンドンのスクールブレッド商会という反物を扱う店で、19世紀なかばにおいて約500人の店員を抱え、「モンスターショップ」と呼ばれていた。これらの商店では、定価表示・現金販売・直接仕入れ・広告ビラの配布など、江戸の大店が実施していたのとほぼ同様な営業形態を取っていた。しかし、ヨーロッパ、とりわけイギリスで大規模小売商が出現した19世紀とは、イギリスが植民地であるインドやアメリカで栽培した綿花を原料に、機械化された製糸・織布によって安価の綿織物を製造し、この国際商品の自給化と輸出によって、アメリカ・ヨーロッパ市場を席巻した時代である。そしてこの国際競争力により富を集め、これを基礎に巨大な50万人もの人口を誇る大都市を成立させた時代であった。
 これに対して、日本の江戸時代において大規模小売商が生まれた18世紀とは、国内において養蚕と綿栽培が拡大してほぼ自給を達成し、絹織物や綿織物を庶民向けのものから高級品に至るまで、ほぼ自給を達成した時代である。
戦争、略奪・植民支配によって市場拡大の原資を蓄積し、金貸し業と傭兵業(国家相手の商売)によって市場を拡大してきたヨーロッパに対して、江戸時代の市場拡大は大衆市場を基盤としたものであることに注目すべきだろう。

○地方市場と地方都市の発達
市場の発達は、江戸大阪に留まらず全国に及んだ。近世の物資の移動の中心が陸路ではなく河川と海の航路を利用した水運を通じてであったことから、城下町を中心とした経済圏は、次第に港町を中心とした経済圏に再編成されていった。この中で各地には、城下町をも凌駕する規模と経済力を蓄えた都市が次々と出現する。それは各地域の主な港町を核として、そこに水路や街道を通じて結びついた地方都市(元は惣村の中心地)や、近世になって町へと発達したいわゆる在郷町が結びついた経済圏である。 このような港町経済圏が発展する中で栄えた港町としては、越後(新潟県)の新潟と出羽(秋田県)の酒田、そして越前(福井県)の三國が特に有名である。
更に 18世紀の始めから後半ともなると、大坂・江戸間の独占的商品輸送販売を行ってきた廻船・問屋仲間に対抗して、新たな廻船・問屋仲間が出現し、菱垣廻船や樽廻船と熾烈な競争を演じるようになった。それが内海船と呼ばれる廻船集団と、それと結びついた問屋仲間である。彼等は三河の知多半島の廻船集団であり、西国の兵庫港と東国の神奈川港を拠点にして、東西の物資輸送を頻繁に行い、それらは地方都市や内陸の農村にも運ばれていった。彼等が扱ったのは九州・四国や伊勢の米と瀬戸内の塩や砂糖、さらに畿内産の油や北国産の〆粕(食料・肥料)などである。
他にも北国と畿内との間の物資輸送に携わった北前船がある。これは北陸の廻船業者・船頭が瀬戸内の廻船を雇いあげて行ったもので、これも兵庫港を基点として北国との間で物資輸送に携わった。兵庫から北国へ運ばれたものは、酒・紙・タバコ・木綿・砂糖・古着で、帰路には、蝦夷地産の昆布・鰊・身欠き鰊や白子さらには干鰯などを積んでいた。それらの多くは大衆需要によるものである。北国の物資輸送の中継点拠点であった新潟県は明治初期においては百万都市の旧江戸を含む東京都の人口を上回るほど栄えていた。
これらに見られるように、江戸時代の市場拡大は江戸・大阪以外の地方にも及んでいることがその特徴である。そしてその基礎を成したのは、中世に形成された惣村である。この村落の自治が領主たちの過剰な収奪を防ぎ、庶民の懐を豊かにし、日本市場固有の大衆需要を生み出したともいえる。
一般に地域自治(封建制)と市場拡大は矛盾すると見るのが歴史の定説であるが、日本の場合必ずしもその理論は当てはまらない。むしろこの自治性の強さが日本固有の市場拡大を生み出したという点に注目すべきではないか。
 
 
 
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