表題の論文が発表されたので紹介します。
宇宙論の多くは、実験検証できない為、論理整合性が問われる分野です。今後広い観点から色々な宇宙モデルが登場すると思えます。楽しみですね
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「新説‐宇宙は膨張していない?」より
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背景:
宇宙は謎に満ちている。特にその始まりに関しては、タイムマシンが開発されない限り観測を行うことはできない。現在ではビッグバンによって宇宙が始まったという説が最も受け入れられているが、それは果たして真実なのだろうか。
要約:
宇宙はビッグバンによって始まり今もなお膨張していると考えられている。この説は約100年間、宇宙の基本モデルとして信じられている。しかしこの度、ドイツはルプレヒト・カール大学ハイデルベルクのChristof Wetterich博士によって、宇宙は広がっていないという新たな説が提唱された。
arXiv(アーカイブ)はプレプリントサーバーで公開された論文によると、宇宙は広がっているのではなく、全ての質量が増加しているのだという。Wetterich博士によると、このような解釈によって、宇宙を理解するうえで障害となっているビッグバン時の特異点の問題などを解決することができるという。
この論文はまだピアレビューをされていないが、ネイチャー誌がコンタクトを取った研究者の誰も確実な間違いを指摘できる人はおらず、彼らの幾人かは研究を続けるのに足る説であると述べた。スコットランドはセント・アンドルーズ大学のHongsheng Zhao博士によると、Wetterich博士の説は興味深く、発展させていく価値があるだろうという。
宇宙が膨張しているという説は、他の銀河からもたらされる光の観測によって説明されている。救急車などが横切る時に経験するドップラー効果のように、銀河が遠ざかっている場合には、観測される光の波長は大きくなり赤色の方向へずれる。赤方偏移と呼ばれるこの現象は、1920年代にジョルジュ・ルメートルやエドウィン・ハッブルらによって殆どの銀河に対して観測され、さらに遠い銀河ほど大きく偏移することから、宇宙が膨張しているという説の根拠となっている。
しかしWetterich博士は、原子から放射される光の特徴は、電子など素粒子の質量によっても変化すると指摘している。もし原子の質量が増加すれば、放射される光子はより大きなエネルギーを持つ。大きなエネルギーを持つ光ほど短い波長を持つため光は紫色の方向へとずれ、逆に原子が軽くなっていると、赤方偏移を示すようになる。
光の速度は有限であるため、宇宙からの光は実際にははるか昔に発せられたものである。もし全ての質量が一度低下し、その後継続的に増加しているとしたら、銀河は現在の波長から赤方偏移した状態で観測され、その偏移量は地球からの距離に比例する。このようにして、銀河は実際には等距離を保っているのに、地球から離れて行っているように見えるのだという。
赤方偏移に関するこの新たな解釈は宇宙論を根本から覆すことになる。現在の宇宙論では、ビッグバンを起こす瞬間の宇宙は特異点と呼ばれ、無限の密度を持っていたとされる。その後初期の宇宙は、インフレーションと呼ばれる短時間の指数関数的な膨張を経験し、現在の膨張速度に落ち着いたと考えられている。しかしWetterich博士によると、ビッグバンの発生は無限時間過去にさかのぼり、特異点は発生せず、現在の宇宙は静止しているか、もしくは収縮し始めているだろうという。
この説は尤もらしいものであるかもしれないが、検証することができないという大きな問題が存在する。質量は次元量であるため、基準と比べることのみでしか計測することができない。例えば地球上の物質の質量は、パリ郊外の国際度量衡局に保管された国際キログラム原器との比率で定義されている。もし国際キログラム原器を含む全ての質量が時間とともに増加していたとしたら、それらの変化を知ることは不可能となる。
宇宙論においては実験的検証の困難さが問題となっている。同様に実験的検証が困難な量子論では、数学的に矛盾しない様々な解釈が用いられている。そのためWetterich博士によると、彼の説は様々な宇宙モデルについて検証するのに利用できるだろうという。特にビッグバンの特異点を必要としないことは大きな利点となるという。
Wetterich博士の新たな説が受け入れられるには大きな困難が伴うだろう。しかしカナダはペリメター研究所のNiayesh Afshordi博士によると、宇宙が膨張しているという説は、銀河の赤方偏移を説明する最も合理的な解釈であるに過ぎないため、Wetterich博士の説の利点については納得のいくものであるという。
またスコットランドはエディンバラ大学のArjun Berera博士によると、この新たな説は宇宙論学者が1つの説に捕らわれることを防ぐ意味合いも持つだろうという。近年の宇宙論は、ビッグバンとインフレーションを中心とした標準モデルの上に成り立っている。そのため、現在までの全ての観測結果と矛盾しない新たな解釈の存在は、1つの説に固執しないようにするためにとても重要なものであるという。 |
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