古代市場と近代市場
269520 パプアニューギニアの現役貝貨: 「物」への支払いは「貨幣」、「人間関係」への支払いは「貝貨」で
 
松尾茂実 ( 46 経営コンサルタント ) 12/10/11 AM02 【印刷用へ
パプアニューギニアでは、国家通貨と並んで貝のお金「貝貨」が現在でも使われています。

貝貨は、儀式やお礼など、人間関係に対する支払いとして使われており、物の対価として貨幣が使われるようになる前段階の様子を現在に残しているようです。


「海のはくぶつかん」2003年7月号リンクより転載
------------------------------------------------------------------
□パプアニューギニアのシェル・マネー

■国の通貨、キナ
 パプアニューギニアでは、国家通貨として「キナ」という貨幣が流通しています。キナという言葉は真珠貝を意味していますので、まさに「貝」を語源とした通貨であるわけです。現在、1キナは約35円ですが、1995年には約106円でした。数年間にキナの価値が三分の一に下がっているのです。そのためにパプアニュ−ギニア国内ではインフレ状態が続き、国民の生活をも圧迫するまさに国家的経済危機に陥っています。
(中略)

■生きたお金、シェル・マネー
 興味深いのは、このようにキナが通貨として流通しているのにもかかわらず、その一方で「貝のお金」も日常生活で使われていることです。特定の場面では、むしろ貝のお金の方が重要な役目を果たしています。それは昔のお金としての「貝貨」ではなく、生きたお金としてのシェル・マネーです。それでは、このシェル・マネーはどのような場面でどのように使われ、国家通貨のキナとはどのように異なっているのでしようか。

 私が長年付き合っている人たちは、海岸沿いから何百キロと離れた山間の村で生活を営んでいます。村での生活は基本的に自給自足ですが、子供を学校にやるのにも、衣服を買うのにもキナが必要なことは都市生活と何ら変わりません。この村の近くの川では砂金が取れるので、村人はそれを町まで持っていっては現金であるキナに変え、鍋やコンロ、衣服など生活に必要なものを購入して村に帰ってきます。

 一方、シェル・マネーは、結婚や成人式、お葬式など、人生の節目の儀礼に必要とされます。また、もめごとが起こった時の調停にも必要です。シェル・マネーといっても、小さな子安貝を植物のつるでつなぎとめたもので、体に身につける装飾品の形をしており、実際に装身具として頭に巻いたり首から下げたりします。さまざまなデザインがあり呼び名も異なっていますが、その大きさや長さ、つまりは貝の数によって価値が決められています。

 結婚する時は、結納金としてキナを支払う場合もありますが、必ずシェル・マネーが含まれていなければなりません。キナはむしろ不足したシェル・マネーを補足する意味で払われます。結納金の支払いは絶対的で、これを支払わないと病気や災いが訪れると信じられています。男性にとって妻をめとるということは、人生の一大事であり、夫と血縁関係にある人たちが総勢でシェル・マネーを集めて支払いを助けます。この村は人口100人あまりの小さな村ですが、このように結婚を通してシェル・マネーが村の中をぐるぐる回っていることになります。

 結婚などの儀式だけではなく、調停にもシェル・マネーは欠かせません。村には慣習的な「おきて」があり、それを破ったものは賠償金を支払わなければならないのです。特に大きなもめごとになるのは、妻の浮気です。それがわかると、夫はその相手である男性に賠償金を請求します。その賠償金には必ずシェル・マネーが必要です。キナだけでは賠償できない行為なのです。夫は、妻の浮気相手から受け取ったシェル・マネーを家の軒先にぶらさげて村人にその事実を知らせます。そして夫が怒りを持ち続けている間は、そのままにしておくのです。ですから、シェル・マネーがぶらさがっている限り夫の怒りが続いていることがみんなにわかることになります。

■かけがえのないもの
 さて、こうしてみていくとシェル・マネーは、「もの」を購入するときに使われるのではないということがわかります。「もの」を買うのはキナ、「ひと」への対価はシェル・マネー、というように使い分けているようです。シェル・マネーを使う時は、値切ったり相場を上げたりしません。変化することのない相場が決められているのです。そのことは、何を意味しているのでしょうか。

 私たち日本人にも結納金という慣習があります。結納金を値切ったり安くすませたりできるでしょうか。普通の人ならそんな恥ずかしいことはできないでしょう。「もの」を買うのとは違い「ひと」に対しては価値が一定なのです。考えてみると、「ひと」に対して支払う祝儀、お年玉や香典もそうです。しかし日本の結納金や香典は、やがて「もの」にとって代わることができてしまう現金でなさなれます。結納金で車を買ってもいいし、香典で家を建ててもいい。それに対してシェル・マネーは、使い道が決まっています。他の「もの」に変えることはできないのです。つまり、そのことはシェル・マネーが、かけがえのない「ひと」という存在に対して支払われていることを意味しているわけです。私たちは、かけがえのない相手に対して、それこそどんなに愛を込めて、また魂を込めて贈り物を贈ったとしても、何にでも取って代わる一種類の「お金」を使っている以上、かけがえのなさを、なかなか確認できなくなっています。

 南の島のシェル・マネーをみることによって、私たちの経済、さらに「価値」のありようについて改めて考える必要があるようです。私たちは一種類のお金を通して「もの」を購入し、「ひと」とやりとりをしています。「もの」とお金の間には、価値のズレがあって、それが損や得を生み出し「ひと」は利益を求めて動いてしまいます。さらに価値が「もの」にあるのか、それとも「お金」そのものにあるのかわからなくなってしまい、「ひと」さえも取り替え可能な存在に思えてしまうのではないでしょうか。たえず海と接して来た人類は、貝から「お金」をつくりあげました。かつてどのように使われていたのか、それは謎です。しかし現代でも「貝のお金」が生きているところがあるのです。かけがえのないものとは何なのか、それが見失われそうな現代であるからこそ、パプアニューギニアの人たちは、シェル・マネーによって変わらない価値を守っているように思えるのです。かけがえのない「ひと」を守り続けているかのように。
------------------------------------------------------------------
 
 
 
  この記事は 269294 に対する返信です。
 この記事に対するトラックバックURL  http://www.rui.jp/tb/tb.php/msg_269520

 この記事に対する返信とトラックバック
271975 貝貨は「想い」を乗せた道具にすぎない 小林雅志 13/01/06 AM01
269751 ベトナムでは定価の概念が薄い〜人間関係によって価格が変わる〜 小林雅志 12/10/18 PM03

  [戻る]  


◆実現論本文を公開しています。
 実現論 : 序  文
 第一部 : 前  史
 第二部 : 私権時代
 第三部 : 市場時代
 第四部 : 場の転換
 参考文献

 必読記事一覧
01 02 03 04 05 06 07 08 09 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 26 27 28
大転換期の予感と事実の追求
実現論の形成過程
自考のススメ1.未知なる世界への収束と自考(1)
自考のススメ1.未知なる世界への収束と自考(2)
自考のススメ1.未知なる世界への収束と自考(3)
自考のススメ1.未知なる世界への収束と自考(4)
自考のススメ2.現代の不整合な世界(問題事象)(1)
自考のススメ2.現代の不整合な世界(問題事象)(2)
自考のススメ2.現代の不整合な世界(問題事象)(3)
自考のススメ3.自考力の時代⇒「少年よ、大志を抱け」(1)
自考のススメ3.自考力の時代⇒「少年よ、大志を抱け」(2)
1.これから生き残る企業に求められる能力は?
2.私権圧力と過剰刺激が物欲を肥大させた
3.市場の縮小と根源回帰の大潮流
4.共認回帰による活力の再生→共認収束の大潮流
5.自我と遊びを終息させた’02年の収束不全
6.同類探索の引力が、期応収束を課題収束に上昇させた
7.情報中毒による追求力の異常な低下とその突破口
8.大衆支配のための観念と、観念支配による滅亡の危機
9.新理論が登場してこない理由1 近代観念は共認収束に蓋をする閉塞の元凶となった
10.新理論が登場してこない理由2 専門家は根本追求に向かえない
11.学校教育とマスコミによる徹底した観念支配と、その突破口(否定の論理から実現の論理への転換)
12.理論収束の実現基盤と突破口(必要なのは、実現構造を読み解く史的実現論)
近代思想が招いた市場社会の崩壊の危機
新理論を生み出すのは、専門家ではない普通の生産者
現実に社会を動かしてきた中核勢力
私権時代から共認時代への大転換
市民運動という騙し(社会運動が社会を変えられなかった理由)
民主主義という騙し:民主主義は自我の暴走装置である
統合階級の暴走で失われた40年
大衆に逆行して、偽ニッチの罠に嵌った試験エリートたち
新理論の構築をどう進めてゆくか

『るいネット』は、46年の実績を持つ起業家集団・類グループが管理・運営しています。るいネットワーク事務局(Tel:0120-408-333, E-mail:member@rui.ne.jp