試験・身分制度の根深い害
226971 屁理屈で継続される無駄事業〜スパコンの事例
 
新川啓一 ( 40代後半 建築家 ) 10/02/22 AM08 【印刷用へ
官僚、学者、企業が一体となって自らの利益確保に走り、客観的、社会的にはその有用性が認められないにもかかわらず、理屈を付けて事業継続をし続ける事例は数え切れないほどあります。

その一例として、昨年事業仕分けで話題となったスパコン開発について紹介します。
「ニュース・スパイラル」の高野孟氏の記事から引用させていただきます。


スパコンで"世界一"になるとはどういうことか? ── 現行の「京速計算機」開発事業は見直して当然
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(以下引用)

鳩山政権=行政刷新会議による事業仕分け作業の中で、理化学研究所が中心となって進めてきた次世代スーパーコンピューターの開発にストップがかけられたことに非難が集まっている。とりわけ、その仕分け人である蓮舫参院議員が席上、「(スパコンの性能が)世界一でなければならないのか」という趣旨の発言をしたことに対して、「科学技術立国を目指す日本が世界一を目指さなくてどうするのだ」といった感情的とも言える非難が集中し、ついにはノーベル賞受賞者ら科学技術界の長老5人が揃って鳩山首相を訪ねて苦言を呈するといった騒動にまで発展した。

(中略)

 しかしこの日米対抗状態は、そう長く続かなかった。1つには技術的な変化で、パソコンやワークステーションに搭載される汎用プロセッサーの能力が飛躍的に向上し、今のパソコンが動画を再生している時などは30年前のスパコンを上回るほどの演算処理を実行しているほどだという。そうなると、高性能にもかかわらず商用生産によって低価格を実現している汎用プロセッサーを多数、並列して用いることによって、遙かに安価に、電力消費も抑えて、スパコンに必要な性能を使用目的に応じて柔軟に生み出すことが可能になった。これをスカラー型と呼ぶ。もう1つは、政治的な理由で、日本勢の台頭に「国防政策上」の危機感を抱いた米政府が、軍事予算を含めて膨大な補助金を注いでスパコンにおける世界覇権を達成する戦略を採用した。90年代半ば以降のこの流れに乗って、一気に躍り出てきたのが米IBMとヒューレット・パッカード社で、これがたちまち世界を席巻して新しい標準となった。

●「世界一」の意味

 この時日本では、富士通と日立はさっさとスカラー型に切り替えたが、NECだけは従来のベクトル型に徹底的にこだわる姿勢を採り、98年に科学技術庁(当時)から600億円の巨費を得て国策スパコン「地球シミュレーター」を開発、2002年に35.86T(35兆8600)flopsのマシンを完成、TOP500で輝ける「世界一」にランクされた。しかしこの「世界一」は、世界中がベクトル型による大艦巨砲主義的なスパコン開発から安価なスカラー型へと雪崩を打って移行している時期だからこそ実現したもので、その当時から「ガラパゴス」とか「前世紀の遺物」とか揶揄された。やがてスカラー型でそれを上回る性能のものが登場して、2度と日本のベクトル型が世界一に返り咲くことはないだろうと言われていた。事実、NECの天下は2年半続いたものの、04年にIBMのBlue Gene/Lが倍する70.72Tの性能を持って登場したため、世界一を滑り落ちた。

 それでも、あくまでNECのベクトル型技術をベースに、それを富士通と日立のスカラー型技術と抱き合わせてハイブリッドにして、再び「世界一」の座を目指そうということで、地球シミュレーターの2倍の1200億円という途方もない予算で始まったのが、次世代スパコン事業なのである。ちなみに、現在、日本国内で最速のスパコンは、長崎大学工学部が開発したもので、市販のGPU(画像処理装置)を760個並列して158T(=158兆)flopsを実現したが、その開発費用は何とわずか3800万円である(地球シミュレーターはその後、200億円近い追加予算でNECのSX-9ベースにシステム更新されて122T)。

 問題は、多くの人々が指摘するように、もはやスカラー型が普遍化している世界でいつまでもベクトル型にこだわって(今ではベクトル型を作っているのは世界でNECだけ!稼働しているベクトル型は世界のトップ500台のうち地球シミュレーター1台だけ!)、それを使って何を----どういう科学技術における世界最先端の成果を----成し遂げようとするのかのソフト戦略も定かでないままに、たった1台だけ突出的に世界最高速のマシンを作ろうというのが、ハード優先のハコモノ行政でないとすれば何なのか、ということである。

 もちろ大艦巨砲型のマシンも目的によっては有用であり、金さえ湯水の如く費やせば作って作れないことはないし、そのためにベクトル型のNEC技術も(スカラー型とのハイブリッドなどの形で)役に立つこともあるかもしれない。が、ITゼネコンNo.1のNECへの遠慮か配慮かは分からぬが、文科省がそれにしがみついたことが戦略的混迷をもたらし、世界の技術潮流に乗り損なう結果となったのは事実である。

(中略)

 ケニアが五輪の他の競技などどうでもいいからマラソンだけは金メダルを取りたいと夢見るのは理解できるが、一時は米国を脅かすほどの力量を持った日本のスパコンがこんな惨状に陥ってしまったのは、偏に産官学複合体のハコモノ主義のためであり、その意味で能沢徹が「計算基礎科学コンソーシアム」やノーベル賞学者らのスパコン予算縮減反対の声明について「あなた方に言われたくないよ」と言っているのはその通りである。

「自分、乃至は、自分の属する組織が、税金を無駄に使い、世界の第2位から瞬く間に第6位などという体たらくな状況に転落させてしまっておきながら、この転落の原因には目をつぶって、次世代スパコンの見直しは『我が国の科学技術の進歩を阻害し、国益を大きく損なう』などというのは、それこそ『臍で茶が沸く』ほど可笑しないいがかりなのである。いいかえると、そもそも既に『あなた方』によって『我が国の科学技術の進歩は阻害され、国益を大きく損ねてしまっている』のである」と。

 ハコではなく中身で日本の科学技術が世界をリード出来るようになるにはどうしたらいいか、国の予算が頼りのITゼネコン、退廃した文科官僚、苔の生えた学者のもたれ合いに任せておかないで、真剣に考えるべき時である。

(以上引用終わり)
 
 
 
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