日本人と縄文体質
217104 万葉歌の生まれた背景 2 「宿る」=継体受霊
 
阿部佳容子 ( 47 営業 ) 09/10/13 AM11 【印刷用へ
万葉集には「安騎野(あきの)の冬猟の歌」と言われる一連の人麻呂の歌がある。最も有名なのは、

東の野にかぎろいの立つ見えて かえりみすれば月傾きぬ

この冬猟の背景には、他の王位継承権者を退けてわが孫(軽皇子)に王位を譲ろうとする持統天皇の切なる願いと決意がある。

安騎野は、持統が天武との間にもうけた唯一の男子、草壁皇子がかつて狩猟に訪れた地である。草壁は、天皇になる前に早逝し、持統は息子と孫のいわばつなぎとして、自ら女帝として立った。この冬猟は、そのような女帝の意図のもとに行なわれ、人麻呂を従わせ、作歌を命じた。歌を作るということは、当時、呪的儀礼としての意味をもった。

「安騎野(あきの)の冬猟の歌」群の特徴は、狩猟自体が主題ではなく、むしろ雪ふるその大野に「旅宿りせす」ことが中心に歌われていることだ。

「宿る」という行為のもつ重要な意味は、いままであまりにも軽く見すごされてきているように思われる。

宿るとは、その地霊に接することであり、またかつてそこで行なわれたことの復活をも意味する儀礼的、呪的行為であった。旅宿りは、死者への追憶と鎮魂とにつらなる。「宿る旅人」とは単なる旅行者ではなく、ここに旅宿りする人たちである。狩猟のために来た人が時刻待ちに大野で露宿するのではなく、古を思う思念を一にして、すなわち天皇霊を抱いて眠るであろう草壁皇子の霊をここに呼び起こすために宿るのである。

ここで最も重要なのは、草壁の子である軽皇子がどのようにして、その急逝した天皇霊を呼び起こし、それをどう受霊するかである。それにはかつての天皇霊が、最もその生命的な活動の状態において回復され、その回復された状態において継体者に摂受されるかということ、この両者がいわばオーバーラップされた状態において合一融即することが、最も望ましい方法であろう。

つまり、安騎野ゆきは、天皇霊の保持者であった故皇子からの継体受霊のために、その合体の場を求めるための冬猟であり、旅宿りであった。そして夜をこめての思念の末に、その感応のあらわれる早暁のときを向かえ、猟の立つ直前、その一瞬において、両皇子の形と影とは一体化し、受霊が行なわれる。人麻呂の作歌は、ひたすらこの絶対的な時間に向かって集中している。

先の「東の野〜」はその頂点に達したときの歌であり、人麻呂作歌のなかでも、とりわけすぐれた統一感を持つ作品であると言われている。が、それはあくまでも呪歌として要求される歌格においてであり、通説となっている叙景歌などでは決してないということの証左でもある。


白川静「初期万葉論」要約
 
 
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