古代市場と近代市場
172198 英国基軸通貨ポンドの衰退過程
 
田中素 HP ( 42 企画 ) 08/03/10 PM02 【印刷用へ
英国のポンド基軸通貨体制が確立するのは概ね19世紀半ばだが、この頃には既にアメリカやドイツが工業生産では台頭を始めており、英国は産業革命によって手に入れた「世界の工場」の地位を譲り渡そうとしていた。

英国では国内産業が不況に陥り低金利状態が続く一方、資金蓄積はある=カネ余りのため、資本家や金貸したちは国内より儲かる海外投資に傾き、貿易収支では常に赤字、投資収益は黒字という状況になっていた。19世紀後半、金本位制の基軸通貨として1ポンド=4.8〜4.9ドルの為替レートを維持しつつ、輸入ドライブと「海外からの金利生活者化」が進み、英国国内産業はますます空洞化していった。

その後、第一次世界大戦が勃発。英国は膨大な戦費調達のため、予算の7割を国防費に投入しなければならない事態に陥り、金本位制の放棄に加え、他国からの債務、とりわけウォール街やシカゴなど米国の金融機関からの借金を余儀なくされる。一方、後発組で参戦したアメリカは戦争特需の恩恵を受け、英国への貸し手側に回る。この大戦のダメージにより、英国経済は海外からの投資収益も失い、経常赤字国に転落する。

この時期、基軸通貨としてはドルとポンドの並立に近い状況となっていたが、1921年の時点で既に金の保有量ではアメリカが英国の3倍と差が開いていた。ここで英国が金本位制に復帰したことがさらに裏目に出る。開戦時4.78ドルだったポンドが1921年には3.78ドルに下落しており、ポンド安で金が流出、その後、NY株式暴落を機に1929年に起こった世界大恐慌も結果的にアメリカより英国の経済力を失わせることになり、大恐慌後の1932年にはアメリカと英国の金保有量の差は6倍に開いていた。

そして、第二次大戦がドル覇権に決定打を与える。大戦に先立つ1934年から1941年の間に、欧州からアメリカへ1万5千トンもの金が移動し、戦後、世界中の金の6割をアメリカが保有するに至って、基軸通貨の地位は完全にドルに一本化されることになる(ブレトンウッズ体制。この時の為替レートは1ポンド4.0ドル)。

このように、基軸通貨国の宿命ともいえる為替高止まり⇒輸出の弱体化⇒国内産業の衰退という底流に加え、2つの大戦と世界恐慌という歴史的事件を経て、基軸通貨の地位が英国から新興国アメリカへ移っていく。そして、この3つの事件には各々、金融資本家たちの動きが絡んでいると言われる(第一次大戦時のFRB創設とアメリカの遅い参戦、世界大恐慌の引き金となったNY大暴落、第二次大戦前に主にドイツから大量の金をアメリカに移転させたBISの役回り等など)。ドル覇権の成立は、英国・ポンドの衰退を見てとった金貸したちの意思で加速された可能性が高い。

(参考)
19世紀後半の英国と現在の日本の類似点リンク
市場と政府の関係の転換リンク
20世紀はアメリカとイギリスの闘いの世紀だったリンク
 
 
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