環境破壊
166921 京都議定書で嵌められた日本 1                       『EU各国が8%の削減でまとまったのはなぜか?』
 
本田真吾 HP ( 壮年 建築家 ) 07/12/12 AM08 【印刷用へ
京都議定書で採択された二酸化炭素の削減割合は、EU8%・アメリカ7%・日本6%だ。批准しなかったアメリカを除くと、環境政策に熱心なEUと、それに消極的な日本と理解されている。ただしこのような理解は、環境という表層観念を絶対視し、外交という国家間の血も涙もない駆け引きの現実を見る事が出来なくなった日本人だけだろう。

しかし、そのような駆け引きの場であったにも関わらず、京都会議でEUは二酸化炭素排出削減にもっとも積極的だった。EUだけ国単位ではなく、欧州地域単位での削減で、域内の削減量の融通が可能という条件があるにしても、利害が絡むEU各国が一つにまとまって8%を合意し、まとまって行動していることが不思議だった。

なぜならば、一般的には、先進工業国で二酸化炭素高排出レベルにあるイギリスやドイツの削減は難しく、それに続く低排出レベルの国家は余裕があり、高排出レベル国から低排出レベル国へ排出権移転料として金銭支払いが発生する。だから、先進工業国としても費用がかかる高い削減目標は、あまり好ましくないと判断するのではないかと思っていたからだ。

ちなみに、京都議定書で採択されたEU加盟国全体の削減目標は


●EU全体     8%


●EU加盟国別の削減目標

ポルトガル   27%   オランダ   -6  %
ギリシャ    25%   イタリア   ‐6.5 %
スペイン    15%   ベルギー   -7.5 %
アイルランド   13%   イギリス   -12.5%
スェーデン    4%   オーストリア   -13 %
フィンランド    0%   デンマーク   -21 %
フランス     0%   ドイツ    -21 %
           ルクセンブルク  -28 %


となっている。前述の前提条件でこれを見ると、ポルトガルやギリシャなどの低排出レベル国の排出権をドイツやイギリスという先進工業国が買い取り(金銭負担をして)EU全体の8%を達成しようとしているように見える。しかしそこには、見事な罠が仕掛けられていた。『環境問題はなぜウソがまかり通るのか 2 武田邦彦著』は、この辺りを分析している。この分析基調に沿って補足してみたい。



まず、16−3 温室効果ガス排出量の推移(OECD Environmental Data Compendium 2004)(リンク)から抜粋。【】《》〔〕〈〉内は追記。


     【京都議定書 1997年▼】
           【日本・EU批准  2001年▼】
           【アメリカ離脱    2001年▼】
                    【ロシア批准 2004年▼】
                            ↓
  【批准国のCO2排出量合計が全体の55%超 京都議定書発効2005年▼】
 
                  
                  (単位 CO2換算 100万t)

国(地域)    1990年     2000年   2001年  2002年
●日本      1,187.3    1,336.7   1,302.3  1,330.8
《 -6%》     【100%】< 13%>【113%】  【110%】 【112%】
●アメリカ合衆国   6,129.1    7,038.3   6,883.9  6,934.6
《 -7%》     【100%】< 15%>【115%】  【112%】 【113%】 
●EU
《 -8%》
イギリス        742.6     647.7    656.2   634.9
〔-12.5%〕    【100%】<-13%> 【 87%】  【 88%】 【 85%】
ドイツ       1,246.8    1,014.1   1,025.6  1,014.6
〔 -21% 〕    【100%】<-19%> 【 81%】   【 82%】 【 81%】
ルクセンブルク       13.4       9.5     6.1   10.8
〔 -28% 〕    【100%】<-30%> 【 70%】  【 45%】 【 80%】

 【】:1990年(基準年)比
 《》:1997年京都議定書で決定された削減割合。
 〔〕:京都議定書時のEU内の削減割合
  <> :実態の削減比率

※イギリス・ドイツはEU内先進国の代表例として、ルクセンブルクはEU内の最大削減目標を定めた国として選定した。

これは2004年OECD報告で、2002年までの確定値である。1997年12月の京都会議から2年強後の2000年には、イギリス・ドイツ・ルクセンブルクは基準年1990年に比べて大きく削減されている。そして、この実態削減率と、京都議定書時点のEU内国別削減目標を並べてみると。

国               イギリス   ドイツ    ルクセンブルク
2000年       実態削減値 <-13%>   <-19%>  <-30%>
1997年京都議定書時点EU内目標値〔-12.5%〕 〔 -21% 〕〔 -28% 〕

このように、3つの国の削減量は京都会議から2年強という2000年時点ですでに、各国ともほぼピッタリの数値で実現されている。

ところで、二酸化炭素の削減というのは、大規模な国家ぐるみのプロジェクトでもなければ、なかなかこのような大きな削減効果は出ない。日本でもオイルショック後の企業死活問題という強烈な圧力の中、10から20年かけて今の省エネ技術は完成した。当然その中には、発電所などの国家プロジェクトに近いものもあり、それらは大規模施設の計画・予算化・更新などで一般的には10年スパンのプロジェクトになる。

武田邦彦氏は以下のように分析している。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
京都議定書が締結されたのは1997年である。筆者の見方ではその時、各国の代表はエネルギー政策などから2000年の二酸化炭素排出量についてはほぼ把握していた。二酸化炭素の排出というのはさほど自由にコントロールすることはできない。発電所を改良するにしても何年もの歳月が必要だし、新しい技術の開発はさらに長い年月がかかる。『環境問題はなぜウソがまかり通るのか 2 武田邦彦著』より
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

このようなCO2削減事業スパンからすると、イギリス・ドイツ・ルクセンブルクは2年強という超短期間で『予定通り』削減が実現されているのだ。つまり、1997年京都会議に時点で、すでに計画の実施は終わり、削減量は把握できていていて、達成可能な数値をもとに交渉に臨んだ、という彼らのしたたかさを見る事が出来る。

さらに、EU各国内での排出排出権取引という先進工業国に不利な状況は初めからなく、ドイツやイギリスは自国だけでも目標を達成でき、かつ、ポルトガルやギリシャなどの低排出国の排出権は、足りなくなる日本に売って儲ける原資とできるのだ。これで、EU各国は何らかの利益が出るので、全体で8%の合意が出来たのだろう。

 
 
 
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