環境破壊
105056 なぜ、江戸時代の日本は滅亡しなかったのか?
 
阪本剛 HP ( 32 SE ) 06/02/03 AM01 【印刷用へ
> 現在の環境破壊は過去の歩んできた状況と極めて近い位相にあると思います。先人達の過ちを繰り返さないためにも現実や固定回路を作ったときの状況をとことん対象化し、同時にその対象化できた状況認識をもとに、探索回路を働かせ鍛えることで、状況認識を塗り替え、実現(生き残っていける)可能性の道を導き出していく必要性を感じます。
104742 「メソポタミア文明は何故滅んだか?」 八代さん)

 環境の破壊という問題に直面したのは、決して現代人だけではない。

 ジャレド・ダイアモンドの「文明崩壊 滅亡と存続の命運を分けるもの」リンク によれば、イースター島、マヤ、ヴァイキング、グリーンランド、といった世界のあらゆる地域で、人口の増大→消費の増大→資源の枯渇→社会の混乱→滅亡といった道筋を辿り滅んでいった社会があった。現在ではドミニカ、ハイチ、中国、オーストラリアといった地域、国にも当てはまる現象だという。

 さて、この滅亡を逃れたごくまれなケースの一つ、として日本を挙げている。
 徳川家康が戦国の混乱を平定して以降、日本は人口の拡大と、森林資源の枯渇に直面した。

 江戸時代において、森林資源は、主要な建築資材であるとともに、燃料でもあった。
 現代の日本人が、プラスチックなどの製品の原料として、あるいは発電や交通機関のエネルギーとして大きく依存しているのは石油であるが、江戸時代の日本人のそれに当てはまるのが木材だったのである。

■滅亡の危機にあった江戸の日本社会
 特に人口が急拡大し、世界最大の都市となった江戸では、木材需要が急増した。木材の欠点は燃焼しやすいことだが、江戸で火災が発生するたびに建て替えが行われ、木材が消費されていった。また、農地の拡大も、森林の減少に拍車をかけた。
 人口が増えたのは江戸だけではなく、農業などの生産技術の進歩により人口が拡大した山里でも、伐採が多くなり、江戸時代には、荒れ果てたハゲ山が増えていったのである。

 山から木が消えると、土壌流出が起こり、肥沃な土が流れてしまう。その結果、森林から有機物の供給を受けていた下流の田畑では土が貧しくなり、収穫量の減少、飢饉が多発するようになった。
 台風など天災の被害も、激しくなった。森林は水を土中にせきとめる天然のダムの役割を果たすので、その機能が失われると、土砂崩れや、河川の氾濫による被害が増えるのである。

 かくして、日本の4分の1の森林は失われ、江戸時代の日本社会は、他の滅亡した文明と同様に、近いうちに崩壊してもおかしくない状況にあったのである。

■なぜ、日本は滅亡しなかったのか?
 さて、それでは、なぜ日本は、江戸時代に滅亡しなかったのだろうか?

 いくつかの社会的なファクターが考えられる。一つは、晩婚化、少子化が始まり、人口増加が抑制されたことである。
 また、木材から石炭へ、効率のいいエネルギー資源利用の変化が始まったこともよかった。そして、他の社会と違い、草木を食べてしまう家畜が少なかったことも挙げられる。
 
 しかし、最も大きなファクターは「統合秩序」だったと、私は考える。

 失われた森林資源を回復させるためには、長い時間が必要である。その場合、社会自体に長いスパンの統合秩序の見通しがなければ、人々の意識は、こうした課題に応えることができない。

 江戸期の安定秩序は、当時の為政者に、森林を管理するための長期的な政策を考えることを可能にした。幕府は、植林、伐採、取引などの過程で、全国的な管理体制を敷いた。そして、庶民からも、長期の協力を得ることができた。各地域で、庶民の間で、森林の利用に関する決まりごとが、(時には自発的に)形成されていった。
 また、鎖国政策によって、自国の資源の減少を、他国からの略奪によって埋め合わせるという選択肢がなかった。それは、自国内で解決するという圧力の形成を促した。
 
■社会の滅亡の原因は何か?
 滅亡した他の文明では、日本のようには、うまく進まなかった。

 例えば、まず王や貴族など為政者自身が、一族を含めた自らの保身に走った。国内での資源をめぐる権力・縄張り争いに力を削がれて、社会全体の秩序は崩れるままにされてしまった。(日本でも、木材消費増大の先鞭を切ったのは、豪奢な城を建てた時の為政者である武士階級らであったが、森林荒廃に率先して立ち向かったのも、彼らだったのである。)
 自国の資源減少を、他国からの略奪によって埋め合わせようとした民族もいた。が、自国の社会の荒廃をとめることができず、結局略奪に向かった他国に移住し、民族はバラバラになり、祖国は失われてしまった。
 
 こう見ると、実は、環境破壊は、必ずしも、社会の滅亡の直接的原因ではないことがわかる。ある国が滅びるのは、結局、社会的外圧を前にした、国内の統合形成の実現の成否にかかっている場合が多いのである。

 現代、環境問題の危機が叫ばれて、久しい時間がたつ。にもかかわらず、まだ解決の方向性が見えないのは、それを実現する同類圧力を生み出す基盤、すなわち社会全体の先行き、見通しが見えず、統合状況がガタガタだからではないだろうか。
(むしろ、社会の統合不全が、目先の答え収束を加速させ、環境破壊に拍車をかけているのではないか、という危惧さえ覚える。)

 まずは、ガタガタになった自分たちの社会をどうするのか。その統合不全に答えが出せない限り、環境問題にも答えが出せない。社会の滅亡を回避しえた江戸期の日本社会が、そのことを教えてくれている、と思う。
 
 
 
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