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脳回路と駆動物質
343263 脳は一貫した物語にしようとする。 宗教、科学を「信じる」時代からパラダイム転換の可能性
 
田村正道 ( 56 京都 建築士 ) 19/02/11 AM09 【印刷用へ
私たちは外界の状況をありのままに認識していると思っているが実はそうではない。
脳が断片的な感覚情報を編集し、足りない部分を埋め合わせて、首尾一貫した物語にしている。

たとえ断片的なものであっても一貫した物語が可能だったからこそ、宗教や近代科学は信じられてきた。
従って、科学では説明できない事がどんどん増えていくと、ありのままの事実認識に戻って、脳は物語を紡いでいくに違いない。

●物語を紡ぐ脳
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より引用

『つぎはぎだらけの脳と心』によると、人間とは脳のレベルで「物語」を作ることを宿命付けられている存在のようだ。人間は各感覚器で外界の状況をありのままに写し取っていると思っているが、感覚器から脳に送られてくる感覚情報は途切れ途切れの取り留めないもので、それを脳が「編集」して足りない部分は埋め合わせて一貫した「物語」にしているという。

 例えば人間は、物を見る際に目がせわしなくあちこちに動く「サッカード」という現象を起こしている。しかし、私たちは眼球があちこち動きまわっているなどということは意識せずに、物の映像が普通に見えている。これは脳が、目が動いている間に送られる情報は無視して、この結果できた隙間を、目の動きが止まってから得られた情報で埋めているからだという。これは、「クロノスタシス」と呼ばれる。
 このクロノスタシスは、視覚だけでなく、感覚一般に広く見られる現象である。「そのまま情報を受け取っていては混乱が生じそうな時、脳は情報をシャットアウトする。そこで生じた空白を、後から得た情報で埋めるのだ。この機能により、脳は私たちに首尾一貫した、意味のある物語を見せることができる」(本書p.130)。

 こうした脳の「物語作り」は、サッカードのような低次の感覚情報の操作だけでなく、高いレベルの知覚や認知でも行われているという。
 そのことは脳に損傷を受けた患者の観察によって明らかにされている。例えば、海馬(記憶に関わる器官)が損傷することにより起こる「前向性健忘」という病気がある。この病気にかかった患者は、ある時点より過去のことに関する記憶には問題がないが、最近の出来事に関する記憶を蓄積することができない。この患者に、「昨日何をしていましたか?」という質問をすると、昨日の記憶はまったくないにもかかわらず、多くの場合、古い記憶の断片を継ぎ合わせて、首尾一貫した詳細な物語を「でっちあげる」。これは、決して患者が自分の意思によってしていることではなく、脳が勝手にしていることだという。
 さらに、脳の中でも、左脳が勝手に物語を作っていることまでが、分離脳の手術(脳の左半球と右半球をつなぐ軸索を切断)を受けた患者の観察などで分かってきている。
 この左脳の「でっちあげ=物語作成機能」は、誰でも「夢」という形で経験している。人はなぜ夢を見るのかについては分からないことも多いが、本書ではその有力な解の一つとして、起きている時に経験したことについての記憶を統合、定着させる説を紹介する。起きている時には多くの感覚情報が入ってきて脳の資源が足りないので、夜にシフトして効率的に脳の能力を使おうとしているというのである。

 夢には何かに追いかけられたりといった怖いものが多いが、この「記憶の統合・定着説」はこれをうまく説明する。起きている時、人は恐怖や不安などの負の感情に関する記憶が定着されやすいのはよく知られている。これと同じように、脳は、寝ている時に負の感情を無理やり引き起こして、それを元に「物語」を組み立てる。この「物語」が夢となって現れると考えるのである。

 ではそもそも、脳は記憶の断片のまま記憶するのではなく、荒唐無稽な「物語」をわざわざつくるのは何故なのか。著者のデイビッド・J・リンデン氏(米ジョンズ・ホプキンス大学教授)は、「左脳の『物語作成機能』のスイッチを『オフ』にできないからではないだろうか」と見る(p.300)。

〜中略〜

 これと同じように、脳は「物語作成機能」のスイッチをオフにできないという。これは、前述したように低次の感覚情報を統合して「物語」をつくってきたことが、進化の過程で高レベルの知覚にも引き継がれた進化上の問題である。
 脳の「物語作成機能」についてもオフにできないことによって、メリット的なものやデメリット的なものなどさまざまな影響を人間に及ぼすが、それらをひっくるめて「人間らしさ」をつくっているということのようだ。
 著者のリンデン氏が、「人間らしさ」の中で究極的なものとして挙げているのが「宗教」である。宗教の「教え」の中には超自然的な現象を記述したものが多いが、これは夢または夢に近い状態(トランス状態や瞑想状態など)で無意識にのぼった物語を素材にして、組み立てられていると見る。こうして結果としてできる物語は意識にのぼることになり、「教義」として広まる。

〜中略〜

 「正しいと証明できないが信じること」という傾向は誰にでもあるが、そのことが「いい加減な実験や観察をでっちあげて『証明した』と言い張る」似非科学者を生む土壌にもなっていると著者は見る。原理主義的な宗教指導者と似非科学者は違ったものではあるが、「共通しているのは、人に何かを信じ込ませようとするところだ。どちらも、人間の脳の持つ特性が背景にある。私たちの脳は、何かを信じるように進化しているのだ」(本書p.307)。
 このように、人間の脳が、「物語」をつくり、しかもつくられた「物語」を信じるように進化してきたということは、本連載テーマのイノベーションを考えるうえでも重要な視点だろう。

〜中略〜

 ビジネスの現場では、こうした人間が持つ「物語」を作り、それを信じる傾向をうまく「利用」することが大切になろう。製品やサービスについて、顧客に対してコンセプトという「物語」を提示することが大切だということはよく知られているが、プラットフォーム(関連コラム)の確立についても、重要な意味を持っていると思われる。

 それは「パラダイム」といってもよいものだろう。世界宗教が世界に広がったように、「物語」を信じる心にうまく訴えるプラットフォームをいかにうまくつくるかがポイントになるようだ。
 
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