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日本人と縄文体質
333424 日本人の贈与論、アメリカ人の贈与論
 
高嶋靖男 18/02/13 AM01 【印刷用へ
なぜ「菊と刀」は名著なのかリンク より

◆日本人の贈与論

「菊と刀」は、太平洋戦争時にアメリカ政府が敵である謎の民族日本人を知るために、文化人類学者ルース・ベネディクトに分析を依頼して作成されました。文化人類学と言えば、モースの「贈与論」が有名です。未開社会では贈与と返礼というエコノミーにより、社会秩序が運営されていることを発見しました。贈与のエコノミーとは、贈与に対して返礼するという交換を基本とします。モースの贈与論では、贈与されると返礼がマナという神的な力にまで昇華されて、人々の行動を強制します。

「菊と刀」もまた贈与論の系譜にあります。日本人は恩、義理、恥などの贈与のエコノミーが強く働く人びととして、西洋人の合理主義と相対化して描かれました。この方法は多くにおいて成功していると思います。ある面で、これほど日本人の特性をうまく分析している本は他に見当たりません。

ルース・ベネディクトは日本を一度も訪れずにこの本をかきましたが、歴史から風習までよく学んでいます。天皇が明治維新に間に合わせで作られた存在であることも書かれています。それがなぜあれほどの求心力を持ち合わせたのか。江戸時代から恩などの返礼の力学を天皇に集中される仕組みを明治政府が作ったからだと、的確に分析しています。

日本人は生まれながらに世間に恩という負債を持つ。社会を作ってきた先人たちへの恩、育ててくれた親への恩。義理を欠くことは日本人として許されない。そして究極的には建国の父である天皇への恩を持つ。この負債への返礼の力学が、階級社会にもかかわらず、反抗もせず日本人の社会が秩序維持される理由である。西洋人の合理性から理解できない日本人の謎の源泉であると、分析されます。

◆アメリカ人の贈与論

これは日本人の一面ではありますが、書かれたのが太平洋戦争時ということもあるでしょうし、文化人類学者故に贈与論という手法に頼りすぎて、あまりに日本人の忠誠を協調しすぎています。

確かに戦時中、天皇への忠誠、国への忠誠はマックスに達しましたが、それ以前は恩や義理は日本人の一面であり、むしろ江戸時代はプレ資本主義、明治以降は自由競争社会で、経済的な合理性を生きていました。

武士に統治される村社会でありつつ、実質的に社会保障制度はなく、それぞれの家は自営業の経営者であり、いかに生産性を上げるか、どのような作物を作ると高く売れるかなど、その経営手腕により、家が富むか、消滅するか決まりました。恩や義理など共同体としての協力も大切ではありましたが、それもまた自由競争社会を生き抜くためでもありました。

アメリカは、清教徒が移住した国で、敬虔なキリスト教の国です。お金持ちは暗黙の強制で多額の寄付をするのが当然ですし、またボランティアは市民の当然の義務です。日本では考えられないですが、今も民間の社会保障は国家によるものと民間が両輪で働いています。それはまさにアメリカ人の贈与文化です。その基本にあるのは、神への贖罪という負債へと返礼です。

またアメリカは開拓地なので、個人の努力と采配による経営で貧富が決まる自由競争社会で、西洋でも珍しく勤勉を尊く重視する国ですが、それはまたアメリカ人の勤勉はプロテスタントの天職として位置づけられました。すなわち神への贖罪の一つです。日本人もまた厳しい自由競争を生きるために勤勉が重視されましたが、勤勉は仏教の慈悲によって世のための奉仕としても位置づけられていました。

ルース・ベネディクトは、贈与論の系譜から、贈与の力学の返礼への義務、すなわち負債を協調します。それはモースの「贈与論」からの特徴ですが、もしかするとキリスト教の贖罪文化からきているかもしれません。西洋人はキリスト教の贖罪文化から、無意識に負債への強い思い入れがある。たとえばモースとともに、負債を重視した思想家がニーチェです。キリスト教徒を負債への返礼に囚われたルサンチマンと呼び、そこからの脱却として、ディオニソスや、超人、力への意思などを対峙されました。それだけ西洋人の負債への思い入れを表していると言えます。
 
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