先日(8月20日)のNHKスペシャルでは、水道事業の民営化がテーマとして取り上げられ、具体的にフィリピンやアメリカなどでの民営化の失敗事例が紹介されていました。
確かに今回のNHKの企画は、現在巷で話題の郵政民営化論議の流れを受け、体制側に立つNHKからの「民営化に対するブレーキ」というメッセージであったとも受け取れますが、事の本質はそう簡単なものではないと思います。
それは、民営化に関する議論の構造には、
@公共事業の民営化は、是か非か。
という表面的なレベルがまず存在しますが、このレベルは、誰もが参加できる二者択一のお祭り的な議論にすぎず、「公務員は儲けすぎ」とか、「一部の民間企業が儲かるだけ」といった私権の相対比較に基づく感情的な意見に場が支配されがちです。むしろ、本質的な論点はその奥にあると思われます。
つまり、
A民営化の背後には、私権時代一貫して続いてきたグローバル化=市場開放の大潮流がある。そこでの主役は、新たなる市場拡大を目指して最後の聖域とも言うべき他国の公共事業を市場原理のもとに組み込んで、他国からの富の収奪をもくろむ多国籍企業です。
実際、今回のNHKスペシャルでも、フィリピンの水道事業に参入した欧州の多国籍企業がごく短期間で現地での収益を貪った上に、結局は通貨危機などを理由に数年で事業を放棄、フィリピン政府にその負債をおしつけて撤退したという経緯が紹介されています。
これは「民営化の失敗」というよりは、世界市場を牛耳る多国籍企業にフィリピン政府がだまされた、という方が正確であり、「水道代の値上げはしません」などのうまい言葉に乗せられて、フィリピン政府が検討不十分なまま多国籍企業の言いなりになってしまった、というのが実態に近いと感じました。
ただ一方で、一国の政府が、巨大な多国籍企業とは言え一企業にやすやすとだまされるというのも現実味に欠けます。ではその背後には何があるのか?
B多国籍企業の隆盛を支えているのは、その資本力、およびそれと密接に結びついた武力(軍事)力ではないでしょうか。実際に、多国籍企業は欧米の巨大財閥グループと一心同体であり、自ずとその影響力は国家間の政治にも関係してきます。
国家の最大課題は、秩序の安定です。そこに付け入って、不安定を作り出すことができれば、国家へのビジネスチャンスが生まれる。彼らはそこを切り口にしているように見えます。
例えば、ある国家の周辺に仮想敵国を作り出し、国民に不安を与えることで、武器の輸出チャンスが生まれます。また、麻薬や武器の流入が進めば、更なる不安定と追加需要も見込めます。あるいは今回のフィリピンでの水事業民営化のように、「雇用創出」や「公共料金の軽減(あるいは値上げストップ)」といった甘い言葉を武器に公共事業の民営化を迫ることもできるでしょう。
このように、先進国における貧困の消滅にもかかわらず、他国の公共事業にまで目をつけて市場の拡大をもくろむ強力な多国籍企業のビジネス(世界統合)モデル。これに代わる統合モデルの提示と実現が今、真に必要とされているのだと思います。
その答えは、フィリピンの水道事業民営化にしても、日本の郵政事業民営化にしても、当事者意識の低いごく一握りの政治家や官僚だけに、国家の命運を託しているだけではダメだ、ということ。どれだけ多くの国民が「社会の当事者」を自覚して、マスコミに代わる共認形成に参加し、政治家や官僚に代わる社会統合課題に参加できるか。
>旧観念を全否定した全く新しい認識が必要だということである。それは、これまで彼ら発信階級が撒き散らす観念をただ受信するだけであった『みんな』の協働によってしか生み出せない。<(44391)
ということに気付けるか、にかかっていると思います。
その意味で、今回の郵政民営化をめぐる一連の社会の動きは、徹底的に社会構造と歴史構造を掘り下げて共認をはかるのに絶好の機会ではないでしょうか。 |
|