生物学を切開する
91621 「遺伝子共同体」の持つ意味、その1
 
吉国幹雄 ( 52 鹿児島 講師 ) 05/05/28 PM09 【印刷用へ
『遺伝子共同体』という衝撃的な言葉がこの「進化論」板で発せられ、なるほどと強く感じたものだった。
ところで、先だっての読売新聞に掲載された記事は改めてこの意味について深く考えさせられた。

>結局、十万の遺伝子が緊密に連動し、協働してはじめて生物は維持され、進化してゆく。要するに全DNA(ゲノム)とは、まぎれもなく十万もの遺伝子の共同体である。<
>従って、まず一個の遺伝子が在るのではなく、まず共同体的な遺伝子群があり、その中でのみ、かつ全遺伝子と適応的である場合にのみ、一個の遺伝子は存在し得るのである。(注:体内淘汰されない限りは適応なので、ごくまれに個体にとって有害な遺伝子が存在することも在り得る。)<(59、四方さん)

<新聞記事「人間は進化の過程でがんになりやすく…>
リンク
>人間は進化の過程で、類人猿を含むほかの動物よりがんになりやすい特性を持つようになったことが、米コーネル大とデンマーク・コペンハーゲン大の研究でわかった。米オンライン科学誌「公共科学図書館・生物学」に発表された。<
> 研究チームは、人間とチンパンジーの遺伝子を解析し、人間だけにがんになりやすくする特定の遺伝子が含まれていることを突き止めた。この遺伝子には精子の死滅を抑えて量産するのを助ける働きもあるとみられ、同チームは「この遺伝子のおかげで、人類は妊娠率と発がん率をともに高める結果になった」と推測している。
 人類は約700万年前に類人猿との共通祖先から枝分かれしたが、その後の進化の過程でこの遺伝子を獲得したとみられる。<

*「がん(遺伝子)」の特徴については、(43067)を参照してください。

「がん(遺伝子)」の特徴を一言で言えば、なかなか「死なない」ことにある。死のメカニズム、例えばアポトーシスが働かない。精子は1個の精原細胞がどんどん分裂していって作られ、最終放出される1回あたりの精子総数は1億にまで達する。この膨大な数の精子を生み出すのに、この「(がん)遺伝子」の発現が関係しているらしい。「精子」は原始単細胞生物への「先祖がえり」に近いので、この「(がん)遺伝子」は先祖がえりの起爆装置なのかもしれない。

しかし、この「がん遺伝子」は現代の「がん」発病の起爆装置としても働いている。(もちろん、すべてが遺伝子に還元するわけではない)。
一方では進化の立役者として活躍した遺伝子が、一方では人類を絶滅させるかもしれない遺伝子として振舞う。
これはいったいどういうことか、どう捉えたらいいのか。

「進化」は実現論前史でも触れらているように、「活性(変異)」と「安定(秩序)」という矛盾する二つのことを同時的に包摂して、可能性収束することで実現される。
これがこれまで明らかにされてきた普遍的な「進化則」。(43067)の「原がん遺伝子」でも触れたが、この遺伝子は仮説ではあるが、変異加速装置として人類が進化適応過程で獲得してものではないかと考えられる。これは可能性を含むと同時に危険性を含む、その意味では「進化則」に則った適応装置なのだろう。

「遺伝子共同体」という側面から見れば、「がん遺伝子」は致死遺伝子にもなりかねないわけで、「遺伝子共同体」にとって不適応遺伝子。しかし、この「精子活性遺伝子」は体内淘汰を採った人類にとっては、まさに種の外圧適応の切り札的な適応遺伝子…
「がん遺伝子」はもともとは体内(あるいは異種)の遺伝子の一部であると考えられているが、それらは排除されなかっただけでなく、人類進化の突破口となった。
まさに、共同体は「活性」と「秩序」という両輪を睨みながら、彼らを遺伝子共同体に迎えたことになる。

 
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