否定脳(旧観念)からの脱却
90779 廃棄すべき桎梏
 
中村朋子 ( 54 大阪 教育 ) 05/05/15 PM00 【印刷用へ
「個人」の内面を取り上げる思想が明確に現れたのは、16世紀前半のいわゆる「宗教改革」(Reformation)においてである。

 カトリック教会に対する批判や教義についての新たな解釈はそれ以前にも少なからずあったが、それらは社会において大きな潮流を一気に形成することはなかった。しかし、M.ルターやカルヴァンの「信仰によってのみ義とされる」「勤労と禁欲によって、救いに予定されている」というプロテスタンティズムの思想は瞬く間に全ヨーロッパに普及した。そして、特にカルヴァンの教説は、のちに社会学の分野において「資本主義」の発展の精神的支柱として称揚される。すなわち「正しい手段での利益追求は神も認めるところである。」という、利潤追求・個の幸福追求の肯定である。

 その急速な普及は「活板印刷の発明」によるところが大きいといわれるが、その前に、上記の思想を必要とする状況に当時のヨーロッパがあったということ、そして「宗教改革者」が自身の触れる現実の中からその思想を形成していったからであろう。つまり、当時の社会の「期待」から生まれたのである。

 16世紀と言ったことから、すぐ想起できるように、教科書の世界史で「近世・近代ヨーロッパの発展」の始点と特筆大書される「ルネッサンス」「大航海時代」「宗教改革」は15〜16世紀に並行且つ連関して起こっている。

 ヨーロッパ主導下での「世界の一体化」の開始期である。

 個の「幸福追求」がいわば「共認事項」として肯定され、保障される時期だったのである。この思想が「近代思想」の出発点といえよう。それはまず「神」「福音」「信仰」という、それ以前からのヨーロッパ世界での共通認識・媒体に乗ったからこそ普及した。「神」の目からは全人類が対象である。

 この思想が「人間はすべて生まれながらにして持つ幸福追求の権利」−「天賦人権」論に繋がる。その獲得を目指す「市民革命」の論理ー「人権思想」である。そしてその「個の権利」の保障期間として、領域主権国家が成立し、市場経済・資本主義を強力に推進する。national interest=個の利益となる世界である。産業革命期の下層労働者の生活の悲惨さはよく取り上げられる。しかし、彼らとて、イギリスの帝国主義によって利をえていたのである。頑張って利を得る権利は万人に認められている。競争は自由である。飢え死にするのも「自由」である。労働力を「商品」として買わないのも自由である。「個人主義」はそうした個々の商品として人間を「分断」した。

 分断された個々は、どうにでも統合成型できる。人間相互の結びつきの希求は、市場支配階級によって提示される「結集点」に向かうしかなくなる。

 それがナショナリズムと個人主義という形で、最も鮮明に表される。

 16世紀から話を始めたが、それを古い昔のことと言えるだろうか。
 一昨年の「中央教育審議会」の答申の主軸は「自己実現」「ボランティア活動」「激化する国際経済競争に勝ち残るための国家戦略としての教育」である。すでに行き詰まっている「市場経済社会」の維持への足掻きである。

 そのために市場支配者は「個の分断ー個の欲求尊重」を打ち出している。
 個人主義による閉塞は、市場支配者の「思う壺」ではあるが、その一方で「生産活力の衰退」をも招いている。市場支配者は、それを打破する「突破口」を持っていない。「個人主義」の鼓吹が自分で自分の首を絞めていることを知ってもどうしようもないのである。

 個のみを中心に考えるのは、人類史における「一時期の現象」に過ぎない。どうしてそれを永久普遍のものと考え、固執する必要があろうか。むしろ廃棄すべき桎梏である。
 
 
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