生物の起源と歴史
90168 脳の機能的性差はどのようにして形成されるのか
 
酒井裕志 ( 42 神戸 技術者 ) 05/05/07 AM02 【印刷用へ
脳の機能的性差の代表例としての性行動の分化について、考えてみたいと思います。

ラットやマウスなどの実験で、生後1週間以内の雌にアンドロゲン(雄性ホルモン)を注射すると、雌でありながら、成熟してから雄の性行動を示すようになり、一方、出生当日にアンドロゲンの分泌源である精巣を摘出してしまうと、雄でありながら、雌の性行動を示すようになるという結果が得られています。このように実験で転換できるので、性行動の雌雄パターンは遺伝的に決められているのではないことがわかります。

発生過程のある特定な時期(臨界期)までは、性行動に関して脳は未分化であって、この時期にアンドロゲンにさらされると雄型になり、さらされないと雌型になる。脳の性分化を決定するのは遺伝子ではなく、雄性のホルモンの有無だということになります。
 
では、実際に雄と雌の脳ではどのような違いがあるのでしょうか。例えば、ラットの視索前野の性的二型核と呼ばれる神経細胞群は、雄の性行動の発現に重要な役割を果たしており、雄のほうが細胞数が多い。この神経核の神経細胞は臨界期までにアンドロゲンにさらされないと、アポトーシス(細胞死)を起こすようプログラムされており、雄ではアンドロゲンの働きにより細胞死を免れますが、雌では細胞死を起こして数が減ります。逆に、雌で細胞数が多い神経核でアンドロゲンでアポトーシスが促進される例もあります。アンドロゲンは細胞数の調節だけでなく、樹状突起や軸索の伸展、シナプス形成を促進し、神経回路の配線にも雌雄差を生じさせるようです。

胎盤を通して母親のホルモンの影響を受ける哺乳類では、脳の性分化がその影響を受けないための防御機構が発達しており、母親からのエストロゲン(雌性ホルモン)を中和するタンパク質を血液中に持っています。(魚類をはじめとする卵生の水性動物には、そのような防御機構はない)

人工化学物質(内分泌攪乱物質)が、性分化にも重大な影響を与えようとしています。それらがどこまで性分化を攪乱するのかを知るためにも、生殖腺の分化や性分化を制御するの遺伝子・分子レベルでのメカニズムについて、今後更に考えていきたいと思います。
 
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