マスコミに支配される社会
86900 現代の芸能は答えに近づくことすらできない
 
酒井裕志 ( 38 神戸 技術者 ) 05/03/07 AM02 【印刷用へ
能、人形浄瑠璃、歌舞伎といった古典芸能に共通して見られるのは、「義理」のしがらみに生きていた当時の人々の生活感覚である。「忠義」は、武家社会の秩序を保つために堅持された儒教的意識であるが、中・近世期の人々は、お上の威光への畏れと諦めを余儀なくされていたのである。

ところが、芸能の民たちは、こうした権威に対して執拗に抵抗した。特に歌舞伎は、庶民の鬱屈したエネルギーを激しく発散させた庶民の芸能であり、幕府の再三の禁令にも屈せず、俳優たちはしたたかに芝居を上演し続けたのだ。彼らが舞台に乗せる芝居は、「義理」や「忠義」という当時の社会規範を題材にしたものだったが、決して忠義を礼讃してはいない。庶民から見た武士の世界の不条理を、また自分たちの義理に縛られた世界を自嘲的に描いているのである。

歌舞伎や文楽が「義理」の世界を涙で表現しているとすれば、落語はそれを笑いによって皮肉っている。義理にがんじがらめになっていた庶民が、こうした芸能によって日頃の憂さを晴らしていたのである。

戦後で言えば、60年代から70年代にかけて、盛り上がりを見せた笑いと涙の人情新喜劇がある。その後豊かさの実現と共に涙は消え、理屈抜きのお笑い路線を突っ走ることになる新喜劇が台頭し、一時的に若者の心をつかんだかに見えたが、今となっては周知の通りの惨憺たる状況である。

芸能は私権統合が盤石だった時代、憂さ晴らしとしては機能していたが、私権観念が瓦解し皆が答えを求めている現代、人々の意識とどんどんズレていくばかりの存在なのではないだろうか。

事実や実感とかけ離れたところで、目先の批判や愚痴で笑いを取ろうとする手法には辟易せざるを得ない。記憶としては何も残らないし、後味の悪さだけが残る。
現代の芸能は、現実逃避という根本部分を切開すること無しに再生はあり得ないのだという思いを強くするばかりである。このままでは答えに近づくどころか、消滅の危機さえ迎えていると言わざるを得ないのではないだろうか。
 
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