心の本体=共認機能の形成過程
5673 「獲得された無力感」と「効力感」その1
 
槇原賢二 ( 30代 大阪 塾講師 ) 01/06/28 PM01 【印刷用へ
たびたびのレス、ありがとうございます。田中さんと私の関心のあることがらには接点が多いようですね。田中さんの投稿、興味深く読ませていただいています。あなたのご意見について、レスもしたいのですが、もう少し、話を先に続けさせていただきます。

「内発的動機付け」が動機付けとしてはたらくかどうかは、「獲得された無力感」に陥ってしまうか「効力感」を持てるかによります。

自分がいくら努力しても、それが現在ある不都合(苦痛・生理的欠乏・知的な課題での失敗など)を解消するのに役立たないと認知されると、努力一般が信用できなくなり、「どうせダメさ」といったあきらめ的な態度が生まれてきます。生来、好奇心・向上心の旺盛な動物が、生後の生育環境の条件により、無力感を獲得してしまうということです。このような心理状態を「獲得された無力感」といい、この心理状態に陥ると改善が可能なときでも、それを試みなくなってしまいます。

「獲得された無力感」の状態の人を動かそうとすると、「ムチ」と「ニンジン」を持ち出すしかないのです。また、「ムチ」と「ニンジン」での動機付けに慣らされた人は無力感を獲得してしまうともいえます。この点については、改めて後に述べます。

それに対して、自分が努力すれば、環境や自分に対して好ましい変化を生じるさせうる、という見通しや自信を持ち、生き生きと環境にはたらきかけている心理状態を「効力感」といいます。


たとえば、イヌ、ネコ、ネズミと使った実験では、回避できない苦痛刺激に繰り返しさらされると、動物には次の3つのマイナス効果が生じることが確かめられています。@環境に能動的に反応しようとする意欲が低下する。A学習する能力が低下する。B情緒的に混乱する。

また、人の場合、無力感は乳児期から獲得されてしまう危険性があるそうです。乳児が泣くときは、おしめがぬれている、お腹がすいたなどの乳児にとっては根源的な苦痛・不快を感じている状態です。それに応答せずにいると次第に無力感が獲得されていくそうです。乳児を泣かせたままにしておくことが続くと、しだいに泣くことが少なくなり、静かな子どもになります。これは、がまん強さやたくましさを学んだのではなく、「はたらきかけても環境に何の影響もおよぼすことができない」といったあきらめの兆候だと考えられています。

乳児期では、乳児が泣いた時には、まわりの人はすぐに応答したほうがいい。そのほうが、後には、かえって泣くことが少なくなり、感情などを伝えることに、より意欲的になり、泣くことの以外の手段も発達させることが多くなるそうです。乳児が微笑みかけたら、微笑み返す、発声してきたら、同じような発声で応える、見つめてきたら、その視線を受け止める。泣いた時のほかにも子どもの意志表示に対して、タイミングよく応答することは、乳児にとって、「環境に影響をもたらすことができる」という経験の積みかさねになり、環境に対して、能動的・持続的にはたらきかける傾向の形成につながるのです。そして、乳児期に獲得された経験により、大人になって失敗場面に出会った時でも、無力感に陥りにくくなるということです。


ちなみに、社会心理学者のウェイナーは、人がものごとの成功や失敗の原因をどこに求めるかについて3つの観点に注目しています。そして、無力感と効力感についての考察をしています。

@焦点の次元・・・原因が自分の内部にあるかとするか、それとも外部にあるとするかです。
A安定性の次元・・・すぐには変えることのできないものに求めるか、その時々により変動しやすいものに求めるかです。
Bコントロールの可能性の次元・・・自分の意志でコントロールできるものに求めるか、できないものに求めるかです。

人が無力感を感じる時には、失敗したときがあります。その時、失敗したことそのものよりは、その失敗の原因を何に求めるかが、決定的になります。心理学的な実験によると、ものごとの成功、失敗の原因を、偶然や運・不運などの外部でかつ自分で統制できないものに求めたり、すぐにはかえられない能力などに求めたりする傾向の人ほど無気力に陥りやすいようです。逆に、ものごとの成功・失敗の原因を努力など自分の内部にあり、その時々で変動の可能性があり、自分でコントロールできるものに求める傾向のある人は無力感を感じにくいということです。

失敗するとすぐに無力感に陥ってしまう子供達を被験者とした2通りの方法での実験があります。ひとつは、成功経験が増せば、自信がつき、失敗に出会ってもくじけなくなるという考えにより、すべて成功経験のみで学習がすすめられるようにした場合です。もうひとつは、原因帰属の仕方を変えさせようという考えにより、大半は子どもの能力内で成功しうる課題だが、5回に1回の割合で高い課題を混ぜ、失敗させ、その時に失敗の原因が自分達の努力不足によると解釈させるようにさせた場合です。このような実験を25日間続けた結果、前者の子供は、その後失敗に出会うとやはり無力感に陥る傾向が強かったのに対して、後者の子供は無力感を感じる割合が少なくなり、効力感を感じる割合が高くなったそうです。

では、効力感をもつための要件についてを中心に、続いて考察します。

参考文献:『無気力の心理学』『人はいかに学ぶか』(波多野誼余夫、稲垣佳代子)
 
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