アダルトビデオのような刺激のみのセックス、寂しさを紛らわすための刹那的セックス、片やセックスレスという性そのものの希薄化。セックス観が混濁し迷走する中で、週刊誌ではセックス特集がひきも切りません。少なくとも「性」が、個人的な問題という次元を超え、人々の普遍的な不全感として表出しはじめているのは確かだと思います。
そんな中、男女関係・性に関してより本質に立ち戻ろうとする流れも目に付くようになってきました。そのひとつとして「サイレントラブ」(五木寛行著)で取り上げられているポリネシアンセックスがあります。
ポリネシアンセックスとは南太平洋諸島に暮らすポリネシアの人々の間に伝わるセックスのスタイルを指します。
『実際に結合するセックスは普通、5日に1度、中4日はしっかりと抱き合って、肌を密着させて眠り、性器の接触はしない。セックスをする時は、前戯や抱擁や愛撫に最低1時間をかける。互いの心と体がなじんだ時に女性の中に挿入した後は、最低30分は動かずにじっと抱き合っている。(中略)身動きせずに30分間横になっていると、2人の間にエネルギーが流れるのを感じるようになると言う。』『じっくり時間をかけることが南洋諸島の性文化に共通している特徴で、旧英領ニューギニアのトロブリアント諸島では「1時間たつと、先祖の霊が目覚めて、われわれの結合を祝福してくれる」と信じられている。』
(参考 「エロスと精気」ジェームズ・N・パウエル著、浅野敏夫訳、法政大学出版局)
これはセックス(スキンシップ)を通じた男女の共感充足にあたるものだと考えられます。共感充足の原型は原猿の時代にまで遡りますが、共認機能の基底をなす期待・応望充足がその中身です。現代人にもこの太古からの共感回路が意識の奥にしっかりと存在していて、十分に機能している(機能しうる)ということがうかがえます。
「性」を取り巻く閉塞状況の中で、このような共感充足の体験(イメージ)はひとつの可能性を感じさせてくれます。
|
|