密室家庭は人間をダメにする
361363 家族・親族にしがみつくしかない子育ての現実
 
新川啓一 ( 壮年 神奈川 建築家 ) 20/10/29 PM10 【印刷用へ
リンク

(以下引用)

■家族だけでは育てられない
さて、ここでクイズです。
「近所の人たちがつくる育児ネットワークは、都市部と郡部のどちらで盛んだったでしょうか?」 

日常のあいさつをする、などの通常の近所づきあいは、大方の想像どおり、郡部の方が盛んだった。
しかし、子育てをめぐる近所づきあいに限っては、予想を裏切り、都会の方が盛んだった。
この結果にはびっくりしたが、その後、当時、横浜市立大学教授だった矢澤澄子さんの横浜市の女性を対象とした調査などでも同じ結果が出た。
この不思議を説明するヒントになるのは、親族との距離だ。

郡部では夫の親、あるいは妻の親と同居している世帯がかなりある。これに対し、都市部では核家族が多く、祖父母を含めた親族が近くにいないケースが多い。
親族から孤立した核家族は、親と同居の世帯に比べて、子育てをめぐる近所づきあいに熱心だということもわかった。つまり都会に住む、親族に頼れない人ほど、やむにやまれず近所の人たちと育児ネットワークを作っていたというわけだ。

わたしはこれを「育児ネットワーク一定の法則」と名づけた。親族でもいい、近所の人たちでもいい。一方が無いときにはもう一方。母親たちは育児ネットワークを作って助け合って育児をしてきた。

母親だけ、家族だけで子育てができるなんて、いつの時代でも幻想だった。1960年代と1980年代の子育てを比較することからわかったのは、「家族だけでは育てられない」ということだった。

■育児不安をもたらすものは何か
1980年代には「育児ノイローゼ」そのものにアプローチする研究も始まった。
「子どもがわずらわしくてイライラしてしまう」「自分一人で子どもを育てているのだという圧迫感を感じてしまう」「毎日毎日、同じことの繰り返ししかしていないと思う」といったチェックリストからなる「育児不安尺度」(育児ノイローゼは専門的には育児不安と呼ばれる)が開発され、育児不安はどのような要因によって引き起こされるのかという調査が積み重ねられた。

その結果、育児不安研究の先駆者である牧野カツコさんによれば、育児不安に影響する2つの重要な要因がみつかった。

第一は「父親の協力の欠如」。必ずしも父親がおむつを替えたりしなくても、子育ての悩みの聞き役になるだけでも、母親の孤立感は軽減される。

第二は、「母親自身の社会的ネットワークの狭さ」。育児に直接にかかわる育児ネットワークに限らず、趣味のサークルでもなんでも効果があるというのが面白い。父親にしても、友人にしても、母親自身が他の大人と交流する機会があり、孤立していないことが育児不安を軽減する。

牧野さんはまた、育児不安傾向のある母親もない母親も「子育て以外にも何かやらねばならないと思う」ことが「よくある」「時々ある」のは同じだという。

ところが実際に「子どもから離れてやりたいことができていると感じる」かどうかには差がある。そう感じることが多い人は、育児不安になりにくい。子どものためということで仕事をやめたり、自分のしたいことを我慢したりする母親は多いだろう。
しかしそれがイライラを高め、子どもに楽しく向き合えない結果につながるとは、なんと皮肉なことだろう。

きょうだい数がせいぜい2人になった世代が子育てを始めた1980年代、「育児ノイローゼ」が初めて社会問題となった。その前の世代が当たり前のように頼っていた親族ネットワークが縮小したことがひとつの要因だった。

育児不安に陥ったのは、社会的ネットワークを失い、孤立した母親たちだった。昔も今も、家族だけで立派に子どもを育てられた時代など、無かったのだ。ましてや母親だけの「ワンオペ育児」なんて、できるわけがない。

■家族・親族にしがみつくしかない現実
1990年代に入ると、さらに雲行きが怪しくなってきた。
1980年代の育児ネットワーク研究は、親族に頼れなくなったら近所のひとたちと助け合い、子育てのための新しいネットワークを作り出す母親たちという、明るい方向性も示していた。

しかし、近所の人たちとのおつきあいは誰にでも簡単なことではない。「公園デビュー」という言葉が生まれ、育児をめぐる近所づきあいのストレスが指摘されるようになった。

1999年には、母親どうしのトラブルにより、育児仲間の子どもを殺す悲惨な事件まで発生した。音羽事件と呼ばれる事件である。「育児ネットワーク一定の法則」を実現できず、子育てに支障をきたすケースがじりじり増えてきた。

1980年代に比べて、2000年代には乳幼児の親の孤立と育児不安がさらに進んだという研究がある。
1980年に実施した調査の結果である「大阪レポート」と、それと比較可能な質問紙を用いて2003年から2004年に実施した調査にもとづく「兵庫レポート」を発表した大阪人間科学大学教授の原田正文さんは、20年以上の時を経た2つの時点の結果を比較している。

それによると、「近所でふだん世間話をしたり、赤ちゃんの話をしたりする人」が1人もいない母親の割合は4ヵ月検診の段階では16%から32%に倍増、「育児のことで今まで心配なこと」が「しょっちゅうあった」母親の割合は4ヵ月検診の段階では11%から14%に、3歳半では7%から14%に増加している。

とはいえ、「育児の手伝いをしてくれる方」がいると答えた割合は、年齢にかかわらず約60%から約90%に大幅に増加している。具体的には父親(つまり夫)と母方祖父母が倍以上手伝ってくれるようになっている。

すなわち、親族ネットワークから近隣ネットワークへの転換は芳しくなく、少なくなった家族・親族にしがみつくしかない様子が浮かびあがってくる。
(中略 引用終わり)
 
  List
  この記事に対するトラックバックURL  http://www.rui.jp/tb/tb.php/msg_361363
  ※トラックバックは承認制となっています。

[過去の記事へ]
[一覧へ戻る] [新しい記事へ]


◆実現論本文を公開しています。
 実現論 : 序  文
 第一部 : 前  史
 第二部 : 私権時代
 第三部 : 市場時代
 第四部 : 場の転換
 参考文献

 必読記事一覧
01 02 03 04 05 06 07 08 09 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 26 27 28
大転換期の予感と事実の追求
実現論の形成過程
自考のススメ1.未知なる世界への収束と自考(1)
自考のススメ1.未知なる世界への収束と自考(2)
自考のススメ1.未知なる世界への収束と自考(3)
自考のススメ1.未知なる世界への収束と自考(4)
自考のススメ2.現代の不整合な世界(問題事象)(1)
自考のススメ2.現代の不整合な世界(問題事象)(2)
自考のススメ2.現代の不整合な世界(問題事象)(3)
自考のススメ3.自考力の時代⇒「少年よ、大志を抱け」(1)
自考のススメ3.自考力の時代⇒「少年よ、大志を抱け」(2)
1.これから生き残る企業に求められる能力は?
2.私権圧力と過剰刺激が物欲を肥大させた
3.市場の縮小と根源回帰の大潮流
4.共認回帰による活力の再生→共認収束の大潮流
5.自我と遊びを終息させた’02年の収束不全
6.同類探索の引力が、期応収束を課題収束に上昇させた
7.情報中毒による追求力の異常な低下とその突破口
8.大衆支配のための観念と、観念支配による滅亡の危機
9.新理論が登場してこない理由1 近代観念は共認収束に蓋をする閉塞の元凶となった
10.新理論が登場してこない理由2 専門家は根本追求に向かえない
11.学校教育とマスコミによる徹底した観念支配と、その突破口(否定の論理から実現の論理への転換)
12.理論収束の実現基盤と突破口(必要なのは、実現構造を読み解く史的実現論)
近代思想が招いた市場社会の崩壊の危機
新理論を生み出すのは、専門家ではない普通の生産者
現実に社会を動かしてきた中核勢力
私権時代から共認時代への大転換
市民運動という騙し(社会運動が社会を変えられなかった理由)
民主主義という騙し:民主主義は自我の暴走装置である
統合階級の暴走で失われた40年
大衆に逆行して、偽ニッチの罠に嵌った試験エリートたち
新理論の構築をどう進めてゆくか

『るいネット』は、47年の実績を持つ起業家集団・類グループが管理・運営しています。るいネットワーク事務局(Tel:0120-408-333, E-mail:member@rui.ne.jp