新しい男女関係(→婚姻制)の模索
360429 代々木忠(AV監督、映画監督、映画プロデューサー)の追求〜癒しの天使〜
 
木戸康平 ( 23 大阪府 会社員 ) 20/09/22 PM10 【印刷用へ
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 応接室のソファで向かい合った彼女は、女性としては上背があり、均整のとれたボディで、きれいな顔立ちをしていた。歳は20代半ば。面接では、監督である僕に媚を売るようなところが見られる子もいるけれど、彼女は終始自然体だった。


 出演動機を訊くと、こんな答えが返ってきた。「性犯罪を私は減らしたいです」。動機を問われて「性犯罪を減らしたい」と言う子はそうそういない。続けて彼女はこう言い添えた。「AVは性犯罪を減らすための1つのコンテンツだと思うんです。そのAVに出て、どんな世界か、どのくらい気持ちいいのか知りたいです」。


 彼女の言葉を読むと、自分の本音はよそに、あらかじめ用意した優等生的な回答を述べているだけだと思う人もいるかもしれない。けれども、先にも書いたように彼女は自然体で、自分をよく見せようとか、僕に気に入られようというオーラはまったく感じない。


 出演動機の中で「どのくらい気持ちいいのか知りたい」だけが、「性犯罪」という社会的事象からは外れていて、「個」の話である。これは彼女がセックスでイッたことがないから出てきた本音だろうが、「性犯罪を減らしたい」というのもまた彼女の本音なのである。


 彼女が10歳のとき、すでに両親は離婚しており、母と兄と暮らしていたが、月に2回くらい父親が泊まりにやってきた。父親が来ると一緒にお風呂に入り、体を洗ってもらった。ある日、いつものように体を洗ってもらったあと、湯船で彼女は無理やり挿入される。実の父親から。


 痛さはあまり覚えていないという。覚えているのは、お父さんが怖かったということ。ただ、それも今から数カ月前に取り戻した記憶で、それまでは意識の深層に閉じ込め、彼女自身も忘れていた。それを本人は「箱の中」に閉じ込めていたと言った。


 10歳のときの恐怖感、それは子どもの想像を絶するものだったに違いない。相手はいちばん信頼すべき親なのだ。どう対応していいのかわからず、どう整理していいのかもわからない。だから彼女は「箱の中」に入れ、忘れることで絶望から逃れた。


 ただし、彼女の身に起こったことは、これだけにとどまらない。高校2年になったとき、彼女は一緒に暮らしていた兄からも無理やりされている。「なぜお兄さんに抵抗しなかったんだろう?」と訊いたら、「私は兄の奴隷でしたから……」と答えた。


 聞けば、それ以前から「服を脱げ」と命じられ、言われるままに写真を撮られたりしていたという。兄の奴隷になっているとき、彼女は感情をシャットアウトしていたそうだ。思春期、兄に隷属していた記憶を彼女は「箱の中」に入れることなく、ずっと持ちつづけた。


 「性犯罪を減らしたい」という言葉の裏には、感情をシャットアウトしたり、記憶をないものとしなければ生きてこられなかった一人の女の子の、切なる願いが込められている。


 彼女は、気持ちはいいものの、クリトリスではイケないという。中では「イケるのはなんとなくわかるような……」と言ったけれど、今まで会った女の子たちの話と比較してみても、この子はイッてないなぁと思った。やはり、トラウマが原因だろう。


 彼女は整体の勉強をし、今は自宅でときどき施術をしているようだ。その一方、回春マッサージの店でも働いており、その前はヘルスに2年いた。風俗の仕事は、いずれ整体師として本格的に開業するための資金稼ぎという面もあるのだろう。


 ところが、整体師として一本立ちするのが夢でありながら、「回春マッサージも捨てがたい」と言う。きっと彼女の中では、整体で体の歪みを治していくのも、回春でお客さんが元気になるのも、どちらも歓びなのだ。


 彼女は人を救いたいという思いが人一倍強い。それは自分を救いたいという思いの表われでもある。癒してあげることによって癒されるのは、ミラーニューロンの視点からも明らかだ。


 ちなみに「箱の中」へ入れた10歳の記憶がよみがえったのは、回春マッサージをしているときだったという。癒し癒されの過程で、忘れることでしか生きられなかったその記憶と向き合う準備が彼女にできたのだろう。そしてそれをこうして人に話せるまでになった。

 面接の終わりに「回春の今のお店で、きっとあなたはナンバーワンだよね?」と言ったら、彼女は否定せず、「リピーターは多いです」と答えた。心に負った深い傷を中和し、自ら乗り越えようとしている彼女。

 整体とは単に歪みを治すだけにとどまらず、体を歪ませてしまった「何か」を洞察し、心のありようまでも整えていく仕事だと思う。応接室を出ていく彼女の後ろ姿を見送りながら、こんな整体師だったら診てもらいたいなぁ……と僕は思った。


(2012年9月28日掲載)



 心の傷を乗り越えていける子といけない子の違いは、だれかに話せるかどうかだと思う。この整体師の子も、兄に無理やりされていたとき、だれにも言えないと思っていた悩みを友達に打ち明けた。「それは逃げていいんだよ!」という友達の言葉で彼女は家を出る。


 友達のアドバイスが、彼女のその後の人生に与えた影響はもちろん大きい。だが、友達に打ち明けた時点で、すでにそれまでとは違うレールに彼女は乗ったのだと思うのである。


 では、そういう友達のいない人はどうしたらいいのだろう。公的機関が悩み相談の窓口を開設している。相手が見ず知らずの第三者だからこそ、言いやすいという面もあろう。いずれにせよ、悩みを自分の中だけに閉じ込めておかないことが大切である。
 
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