生命原理・自然の摂理
358297 動物は安心するために群れる
 
匿名希望 20/07/09 PM11 【印刷用へ
 群居性を示す動物は,群れのメンバー間で洗練されたコミュニケーション手段を発達させ,協力的な行動や群れの統制を図ることで,個々の生存確率を上昇させていると考えられる。これまでは,群れ内の社会階層によるストレスに関するものが主に研究されてきたが,共存することによる利益も見出されている。そもそも動物が群れることでの利益に関しては,進化生態学的に広く論じられてきた歴史があり,群れによる天敵からの攻撃を希釈する効果,群れることでの天敵との敵対的行動の強化,若齢動物の庇護,餌資源の共有による飢餓からの回避,などの効果が知られている。もう一つの群れの機能として,群れの中にいることでの「安心」があげられる。群れで生活する動物を隔離し,単独生活させると強いストレスがかかる。

例えば,群れ生活のヒツジを群れから離すと,群れに帰るまで鳴き,動き回り,心拍数も増加し,ストレスホルモンが上昇する。このヒツジを群れに返すと,とたんにこのようなストレス応答は消失する。それだけではなく,群居性の動物では,1個体で新奇環境に導入するとストレス応答が観察されるが,複数個体で新奇環境に導入するとストレス応答が軽減されることが観察された。このような親和的な他個体の存在によるストレス応答の軽減効果は社会緩衝作用と呼ばれている。さらに群れの中にいる弱者を群れ全体で守る行動が発達したと考えられる。援助行動は「他者の苦痛を認知しそれを軽減させる行動」と考えることができるので,弱者を守るような神経機構や行動の発現を促す動機付けは,共感性という脳機能で説明されるだろう。これは群れのメンバーが遺伝的に近縁であることから,援助することで自己の遺伝子の生存確率を高めることにつながるという,適応度の観点からも理解されている(de Waal, 2009)。
そのため特に顕著なものとして,母親が幼若個体を過剰なストレスから守り,助ける行動が最も広く観察される。群れでいることでのストレスの社会緩衝作用は,見知らぬ個体間よりも,親和的関係性,とりわけ絆を形成している個体間でより顕著に観察可能である。つまり絆や親和的な関係性の神経機構と社会緩衝作用の神経機構が共通な神経基盤の上に成り立っていると仮定できる。

■動物の母仔間の絆
 生物学的な絆は心理的な機能で,直接的に観察することが難しい概念上の関係性といえる。動物では心理尺度を測定することが困難なため,行動学的あるいは生理学的な指標を用いて,その存在を調べる方法が考案されてきた。たとえば絆が形成された個体同士を物理的に隔離すると,ストレス指標である血中のグルココルチコイドの濃度が上昇する。また,絆が形成された個体同士を分離後に再会させることでストレス応答が軽減される。
社会緩衝作用の強さは個体同士の親和性の強さに依存するため,母仔間のような絆のある個体間でもっとも強い効果を持つ。ヒトにおける母仔間の結びつきの重要性はボウルビィによる“アタッチメント理論”として提唱されたが,その中でも特筆すべきことは,養育者の果たす役割として,安全基地が述べられている点である。つまり,幼若個体が,養育者のもとでは安心して守られている,という安心をえる対象であるというものだ。実際にその後の研究によりヒトを含めた哺乳類の母仔間において社会緩衝作用が観察され,母親の存在は仔のストレスを軽減できることが報告されてきた。
 
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